プロファイル
柚子の里のサンダ杜

 そこは蛇行している大川が山肌を削りとった谷間の村である。わずかに、小川が大川に合流しているあたりに、平地と呼べる土地があった。人々はその平地に田をつくり、川のほとりや山間を開墾した土地に畑を耕し、山の恵みと川の幸を狩って生計を立てていた。大川は大雨が降ると決まって氾濫し、作物を持っていってしまうことも少なくなかった。しかしながら氾濫は肥えた土を上流から運んできて、よく年に実りをもたらしてくれた。
 一説には、ある年のこと、雨は降り続き大川は激しく渦巻き、田畑はもとより山懐の住処まで押し寄せてきた。まるで、八岐の大蛇がのたうち回るがごとく人々を恐怖に陥れた。この危機を救ってくれたのは村の三太夫であった。彼が村人を小高い丘の上に導いてくれなければ、谷間の山津波と大川の激流に挟み撃ちになっていたであろう。 三太夫がこの世を去った後、村人は彼を偲んで丘の上に祠をたて、椎の木を植えた。椎の木は大きくなり周りはうっそうと椎の木が生い茂った。いつしか人々はそれをサンダ杜と呼び、守護神として永く崇めたという。
 数百年の時代を経て、大川にはダムが建設され、洪水の恐怖から人々を救った。一方、ダムの工事のため昔からの道は拡幅され、サンダ杜の丘も削り取られていき、ついには幹回り数メートルの椎の木も姿を消した。祠は移転され、今も住民を見下ろしている。


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