政府 イージス・アショア計画を撤回

 萩市むつみの陸上自衛隊演習場にレーダーとミサイルのイージス・アショア基地を建設するという計画は、2017年12月に国会に諮ることもなく閣議決定されて以降、地元の住民に不安と心配をかけてきた。しかし、去る6月15日に突然と河野防衛大臣が計画中断を記者発表し、その後の政府の会議でも了承されて、防衛省の現地事務所も7月末で撤収とあいなった。
 イージスというレーダーと迎撃ミサイルが一体となったシステムは、もともと米海軍の艦隊をミサイル攻撃から守るために開発されたもので、弾道ミサイルを迎撃するのに使えるとして、海上自衛隊の護衛艦に導入されている。2017年1月にトランプ氏が米国大統領に就任すると、アメリカ・ファーストで米国からの農産物や工業製品を大量輸入、兵器購入の圧力があり、これに屈した安倍政権は、2017年8月に日本側かは小野寺防衛大臣と河野外務大臣が出席した日米2+2会議において、イージス・アショアの導入を表明した。イージス・アショアは日米が数千億円と10年以上の歳月をかけて改良してきた新型の迎撃ミサイルを使用し、秋田と山口の2基の地上基地で日本全土を短距離および中距離弾道ミサイルから守るという触れ込みであった。
 2018年度の政府予算が執行されると同年6月に防衛省は秋田と山口に基地建設の適地調査を申し入れてきた。地元説明会では、一端ことが起こると真先に攻撃対象となることへの不安、水資源・環境破壊、まちづくり計画との矛盾のほかに、迎撃ミサイルの補助推進装置ブースターが基地周辺に落下し、地元民は背中から攻撃を受けるも同然という不安が住民側から表明された。これに対して防衛省はむつみ演習場内にブースターは落下させるから心配はないと言いはり、地元首長への大臣の公印付きの回答書でもそのように言明してきた。
 その後、防衛省は2019年5月と12月の適地調査報告書でもブースターは安全に落とせると繰り返している。ところが、2020年5月に至り、ブースターを演習場内に落下させることを米国側と打ち合わせてきた結果、それにはさらに数千億円の改修費用と10年の歳月が必要と分かったという。そうまでしてイージス・アショア計画を推進するのは合理性に欠けると河野防衛相は判断し、安倍総理の同意を得た結果の計画撤回となった。地元にはさんざんに心痛を掛け、国費の数百億円の支払い済みの金と、今後の違約料は無駄になる。一体、誰が判断ミスをしたのか、糾されねばならない。
 そもそもイージスシステムは基本設計から40年を経過し、その後に進歩をとげている弾道ミサイルや極超高速滑空弾には現行の迎撃ミサイルでは対応できないと言われている。盾を堅牢にすればそれを凌ぐ矛が誕生するという兵器開発のイタチごっこである。イージス・アショアは対北朝鮮であったが、今や米中対決の様相を呈し、日米軍事同盟の狙いに変化が見られるのが今回の戦略変更の遠因であろうか。
 イージス・アショアは撤退となったが、山陽小野田市では宇宙防衛戦争を睨んで宇宙監視レーダーの設置準備が進んでいる。岩国の米国基地は東洋一の規模に拡充が進んでいる。住民の同意が得られないという理由での国策の中止は、まれに見る住民勝利と言うことが出来る。しかし、無理をごり押しの辺野古海上基地建設は撤回の兆しさえない。際限のない核兵器開発競争は緊張こそもたらしたが、世界の各地での紛争の平和的解決には何の役にも立ってはいない。
 戦争の危機の宣伝に徒に惑わされてはいけない。わが国には平和憲法という素晴らしい武器がある。微力な住民の正論が権力の横暴を止めたのがイージス・アショアの計画中止である。主権者は国民、住民なのだから、胸を張って正義を貫きたいものである。(2020年7月27日 HM)
山口支部ニュース「つうしんNo.191」の記事より


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