日本科学者会議山口支部ニュース 「つうしん No.178」2016.12 付録の
支部創設50周年企画記事: 1960年代から80年代にかけての山口県下における原発立地問題資料

 (付録) 支部創設50周年企画記事
 山口支部創設期から1987年に山口県商工指導センターを退職するまで長らく支部事務局員を務められた田邊澄生氏より、
山口県における原子力発電所の設置問題にかんするメモが寄贈されました。このメモから、山口支部の活動に関わるもの
を抽出します。

1964年より長門市西深川境川に原発を立地する話があった
1967年9月23日、日高六郎氏の「核時代における日本の現実」と題した講演会があり、これを後援した
1970年より豊浦郡豊北町神田岬に原発を立地する話が伝わった
1971年8月10日の中国新聞と防長新聞、中国電力が「山口県に原発計画」と報ずる
同年9月22日、山口支部は長門市と豊北町へ現地調査を2名で実施
同年10月 支部の公害研究委員会報No.2で山口県における原発設置問題の記事を載せる
同年12月18日 公害問題研究委員会が「神田岬の地元住民・県民の皆さんへ!危険な原子力発電所設置の問題」という
ビラを現地に配布
1972年1月17日 工事中の伊方原発の現地視察、支部から6名参加
同年2月7日 公害研究委員会の6名が豊北町神田岬と原油基地予定地を現地視察
同年9月22日 長門市から豊北町にかけて現地調査を行い、25日からの浜岡原発をめぐる研究集会で報告
同年12月18日 支部公害研究委員会が神田岬原発予定地と豊北地区国営農地開発事業の調査
1973年3月25日 公害研究委員会の6名で神田岬原発設置問題の調査
同年5月30日 阿武郡田万川町宇生で原発の地質調査と測量が行われていることが町民の間で問題となる
同年6月18日 田万川の原発問題有志の会へ講師2名派遣
同年7月15日 支部原子力発電所問題研究委員会が「原子力発電所と住民の安全」のパンフ発行
同年10月3日 毎日新聞が田万川原発ほぼ確実、すでに買収交渉中と報ずる
同年10月14日 支部原子力発電所研究委員会が田万川町に講師2名派遣
同年12月25日 「田万川町における原子力発電所設置問題」原発問題研究委員会の報告を支部つうしんNo.20に掲載
1976年夏 徳山・下松港からの核燃料の積み出しが問題となる
同年9月26日 徳山で 「核燃料輸送と原子力発電問題」学習会を被団協との共催で開催
1977年2月20日 公害研究委員会が「山口県における原発設置問題 1.長門市西深川 2.豊北町」を出す
同年6月13日 中国電力が山口県および豊北町に原発設置計画の協力を申し出る
同年7〜9月 原子力発電所設置問題研究グループが5回の支部学習会を開催
同年7月27日 滝部、矢玉漁協の学習会に支部から講師4名派遣
同年 そのほかにも支部から講師を数件派遣
同年10月13日 中島篤之助氏原発講演会「原子力発電は何をもたらしたか」を支部主催で開催
同年12月18日 公害研究委員会が「危険な原子力発電所設置の問題を訴えます」のビラを神田岬の住民に配布
1978年1〜12月 平和問題学習会「核兵器拡散の現状について」を山口支部宇部分会で6回開催
同年3月4, 5日 安斉育郎氏による「原子力発電所設置問題講演会」を県内三カ所で開催
同年6〜11月 原子力問題研究委員会が3回の学習会を開催
1979年2, 4月 原子力問題研究委員会が2回の学習、講演・討論会を開催
同年5月13日 支部第14回定期大会で、豊北原発建設計画の白紙撤回を求める決議を採択
1980年5月14日 原子力問題研究委員会学習会
1981年5月24日 支部第16回定期大会で、豊北原発建設計画の白紙撤回と原発計画の根本的な見直しを求める決議
1982年12月 安斉育郎氏、上関で原発講演会
1983年2月27日 「原発に反対し、上関町の安全と発展を考える会」の結成総会にあたり支部原子力問題研究会の2名が
記念講演「原子力発電と私たちのくらし」
同年9月3日 原子力問題研究会学習会「現在における原子力問題の総括」
1984年6月30日 原子力問題研究会学習会
1985年2月12日 原子力問題研究会学習会
同年3月17日 中島篤之助氏の講演会「原子力問題のかかえる問題点」を徳山で開催
同年5月12日 支部第20回定期大会で、「上関・萩原子力発電所建設計画について」反対決議 
1986年11月25日 原子力問題研究委員会「原子力発電とその問題点(改訂版)」発行
1988年10月29日 原発をつくらせない山口県民の会結成総会で赤塚夏樹氏「原発の安全性をどう見るか」講演
1989年10月15日 原子力問題研究委員会が上関現地訪問
1989〜90年 分会、班で原発学習会相次いで開催
以下、省略

なお、山口県における原子力発電所立地問題は、
  日本科学者会議編「原発を阻止した地域の闘い 第一集」本の泉社(2015年11月)p.79~98
にまとめられています。その「はじめに」の部分を引用して、上記資料の補完とします。

はじめに
 中国電力は,島根原発の建設着工(1970年2月)に前後して,日本海沿岸の何カ所かで原発立地を企て,山口県内では
60年代中頃から80年代にかけて,長門市,豊北町(現在は下関市に合併),田万川町(現在は萩市に合併),萩市三見
で立地に向けての動きがあった.
 長門市の場合は山口県が64年度に78万円8千円の調査費で,西深川地区で立地調査を行った.地元黄波戸漁協が反対し
,共産党も反対のビラをまき,市長に申し入れをした.これに対し,市長は医師の立場から個人としては反対である,
設置しないことを約束し,その後立ち消えになった1a).(山口県北西部の黄波戸から油谷湾にかけては顕著な地すべり
地帯である.)
 次に豊北町神田岬を山口県が調査費75万6千円で調査したのは69〜70年である.一部には誘致の動きもあったが,漁業
権を持つ矢玉漁協で若手を中心に反対運動が起こり,住民の90%以上の反対署名を集めて設置反対を表明した.70年5月,
矢玉漁協の総会に出席させられた町長は原発設置を説明したが,反対意見が強かったため,ついに「いちおう現状では
困難なので見合わせる」と言明せざるを得なかった1a,1b).その後77年に中国電力から地元へ正式の建設申し入れがあり,
78年には要対策重要電源に指定されたが,同年の町長選挙で原発反対候補が当選し,町長・町議会は建設拒否を中国電力
に伝えた.以後,地元は反対の姿勢を崩さず,94年に至って要対策重要電源の指定は解除された2,3).なお,神田岬
は山口県西部の菊川断層の線上にあり,最近の海底調査結果によると断層の総延長は40km以上に及ぶ18).
 田万川町では,73年冬に宇生地区で原発立地調査が行なわれているに住民が気づいた.同年3月には適地であるとの
報告が広島通産局より町長にあった.夏には地元の江崎漁協が全組合員の署名を添えて計画撤回と調査打ち切りを町議会
に要望した.その後,周辺漁協や地域住民へも反対運動が広がり,10月には反対同盟会が発足,沿岸漁民の総決起大会が
開催され,下関市から島根県益田市までの漁協から1,400名が参加し,隣接の須佐町議会が原発建設反対を決議する中,
田万川町議会も江崎漁協から出された原発建設反対請願を採択した.電力会社の工作や右翼の介入もあったが,町長
や町議会が「賛成」を口にできない状況が作り出され,計画は10年ほどで立ち消えた1c). 
 萩市では82年6月に三見の河内地区での計画が報道され,83年1月に中国電力は原発予定地であると正式に公表した.
86年には市議会が立地調査を求める請願を採択したが,計画中心部の土地は反対派により共同登記され,95年になって,
市の原発問題対策室は廃止され2,3).立地点は市役所から僅か6km西の海岸で,観光都市を目指す市民の賛成は得られ
なかった.
 このように,日本海側での計画が頓挫する中,中国電力は瀬戸内の上関町で建設計画を進め,計画が表面化した1982年
6月から33年が経過している.この間,町長と議会の多数派が原発を誘致するという形をとり,町長選挙や町議会議員
選挙で常に多数派を制するなか,祝島の漁民や長島の地権者の反対を様々な方策で封じてきた4).
 しかし,粘り強い反対運動を続けている祝島の島民を初め,町民の三分の一は反対の意志を維持している5).また,
予定地周辺は自然が豊かで,希少動物等が次々に発見され,その保護も争点になっている6,7).2011年になって,中国
電力は埋め立て準備工事を強行しようとしたが,反対派とトラブルになり,一時中断を余儀なくされた8).そのさなか
に東日本大震災が発生し,原子力安全保安院による審査も止まり現在に至っている.

注および引用文献
 1a) 日本科学者会議山口支部公害研究委員会報  (1971) No.2, p.4.
 1b) 日本科学者会議山口支部つうしん (1972) No.11, p.3.
 1c) 日本科学者会議山口支部つうしん (1973) No.20, p.2; 中村氏(旧田万川町住民)からの聞き取り,2014年8月,
   萩市弥富公民館にて.
 2) 原子力資料情報室 編『原子力市民年鑑98』(七つ森書館,1998)p.94-96.
 3) 野口邦和 監修『原発・放射能図解データ』(大月書店,2011)p.29.
 4) ストップ上関原発! http://stop-kaminoseki.net/
 5) 祝島島民の会blog http://blog.shimabito.net/
 6) 上関の自然を守る会  http://kaminosekimamoru.seesaa.net/
 7) 中国電力ホームページ「貴重な動植物について」
   http://www.energia.co.jp/atom/kami_eco3.html 
 8) 朝日新聞「プロメテウスの罠:抵抗32年の島」2014.9.5~9.26」.
 18) 西村・今岡・金折・亀谷『山口県地質図第3報(15万分の一)説明書』(山口地学会, 2012).


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