日本科学者会議山口支部ニュース 第166号(通算)(2013年1月1日)
つ う し ん
WEB版 2017 復刻

「支部つうしん」をお届けします。2012年2月以降の活動報告です。

日本科学者会議「第19回総合学術研究集会」報告

吉村高男(山口支部代表幹事)

 日本科学者会議(JSA)の第19回総合学術研究集会が、2012年9月14日〜16日の3日間、「持続可能な社会への変革をともに」をテーマに岡山大学を会場にして開催された。全体で600名を超える参加者を得ることができた。初日は、池内了氏による基調講演「持続可能な社会への変革をともに」と、安斎育郎氏による特別講演T「原発破局への道」、室崎益輝氏による特別講演U「安全・安心な社会の構築のために」があった。池内講演では、3・11の大震災と原発事故で受けた大きな衝撃を通して、原発の反倫理性と科学の信頼性への揺らぎについて議論された。さらに、持続可能な社会への変革を行うためのキーワードとして「地下資源文明から地上資源文明への転換を!」ということを強調された。安斎講演では、第二次世界大戦後の日米関係の中で、日本が原子力政策に至る本質的な部分の経緯を明確に示された。それは「一国を支配するには食糧とエネルギーを支配すればよい」というアメリカの基本戦略に基づいたものであった。安斎氏が32歳の時に、原発政策を総合的に批判するための基準を、日本学術会議の原発シンポで示された「6項目の点検基準」は今も適用できる優れたものである。我が国の原子力政策の本質について、その歴史を踏まえて明確に示したすばらしい講演であった。室崎講演では、東日本大震災からの教訓として、防災対策から危機管理へ、防災から減災への発想の転換が必要なことが示された。目標、実行管理ではよく、「PDCA」サイクルが強調されるが、防災では被害想定するというAssessを前につけた「APDCA」サイクルのリスクマネージメント(事前危機管理)とクライシスマネージメント(事後危機管理)が必要であることが強調された。
 初日の夜に開催された市民交流会では、多くの地域で取り組まれている原発反対運動、東北復興支援、福島原発告発訴訟運動、自然エネルギーへの転換活動など、多くの市民団体の報告を中心に、市民と科学者の実りある交流ができた。
 一般講演については、29分科会で150を超える講演があり、専門分野を踏まえた講演、及び専門分野を超えた総合的な立場から、市民と科学者の連携を目指した学問の在り方等について議論が展開された。筆者はエネルギー・原子力分科会で「原子力の本質」について講演をした。現在の技術では原子力には本質的な欠陥があり、太陽エネルギー密度が比較的高い、太陽系の第三惑星であるこの地球上においては原子力発電は不要であり、今回の研究集会のテーマでもある「持続可能な社会への変革」におけるエネルギー源は太陽エネルギーをはじめとする「持続可能なエネルギー」であり、科学者集団としてその開発に英知を結集することが肝要であることを強調した。さらに、原子力エネルギーが本質的になるのは、太陽エネルギー密度が薄くなり、化石エネルギーが存在しない「深宇宙」に人類が進出した場合であることも提言した。
 ポスターセッションでは、東日本大震災に関する話題をはじめ、各支部における取り組み等が報告された。山口支部からも筆者が上関原発建設に係る現状について報告した。さらに、今回の特徴として、マスターズレクチャーやヤングサイエンティストレクチャーが設けられ、日本科学者会議における研究の伝統的な紹介と、若手による新たな視点からの研究開発の紹介があり、大変意義深いものであったと言える。次回の「20総学」は2014年に福岡で開催される予定である。

(編集者付記)岡山で開催というので、初めて総合学術研究集会に参加しました。JSA創設時からのそうそうたる人たち+若い会員が活躍している姿に感動を覚えました。2年後の20総学は福岡県で開催とのこと、山口支部から複数の研究発表を期待します。総合的視点での学術的見解の交流の場はJSAしかないと言っても過言ではないでしょう。

支部ミニ学習会「日本経済の現局面と国民生活の安定・向上のための基本戦略」
 2012年11月30日、山口支部と山口大学関係者九条の会が共催、山口大学教職員組合後援で、山口大学内で開催。講師は日本科学者会議事務局長をつとめている中央大学の米田 貢教授。
 講演ではまず日本経済の現状把握として、90年代後半以降、製造業を中心としたグローバル企業が国内生産・雇用を縮小させ、それが国民経済収縮の悪循環をもたらしている、従ってグローバル企業の成長は国民経済の発展ともはや両立しないことが述べられた。いわゆる経済「成長戦略」は空洞化を推し進めるだけであるので、それとは逆のベクトルである、ヒト・モノ・カネが地域内で循環するような自立した地域経済循環を各地に創り出すことに、余力がある今こそ投資すべきだと説かれた。
 参加者に発想の転換を迫るとともに、国民経済の再建の展望を与える講演であった。


原発事故関係学習会・講演会 (県内開催分)

2011年
  4月19日 「福島原発で今、何が起きているのか」山口大学内 増山会員
  5月28日 「福島第一原発が私たちに発信すること」山口市内 増山会員
  6月 1日 「放射性物質の土壌への影響」山口大学内 藤間会員
  6月18日 「福島第一原発事故と放射能汚染」宇部市内 増山会員
  7月3日 「日本の環境と原子力発電所」宇部市内 増山会員
  7月16日 「原子力災害とその対策について」萩市内 吉村会員
  7月27日 「一時帰宅住民のスクリーニング活動に参加して」宇部市内 増山会員
  8月6日 「原子核とエネルギー」山口セミナーパーク 増山会員
  8月10日 「原子力とエネルギー政策について」萩市内 吉村会員
  8月13日 「核エネルギーの歴史と原発事故」下松市内 増山会員
  10月26日 「住民一時帰宅支援のスクリーニングに参加して」山口大学内 増山会員
  11月23日 「福島の今 〜東京電力福島第一原発事故と、その後」山口大学内 増山会員
  12月15日 「ベクレルってなに?シーベルトってなに 〜放射能の基礎〜」宇部市内 増山会員
2012年
  1月14日 「福島原発事故と核エネルギーを考える」山口市内 増山会員
  6月2日 「福島第一原発事故と放射線」長門市内 増山会員
  6月8日 「核エネルギーと人類〜フクシマ原発事故の警告〜」下関市内 増山会員
  6月11日 「放射線計測器について」宇部市内 増山会員、甲斐会員
  7月28日 「深宇宙における原子力の平和利用」山口大学内 吉村会員
  9月13日 「放射能と放射線計測」山口市内 増山会員
  10月3日 「地域防災を考える−福島でのスクリーニング活動の経験から−」山口大学内 増山会員


訃 報
 日本科学者会議中国地区担当常任幹事、山口支部代表幹事等を歴任された宇部分会の三好正毅会員が2012年4月10日肺炎で逝去されました。氏は宇部地区で長年にわたり読書会を主催されておりました。最近では2010年3月に山口大学工学部を定年退職された後、山口支部常幹として「つうしん」の編集責任者をつとめておられていましたが、2012年2月の165号が最後の発行となりました。永年の科学者運動でのご活躍に敬意を表し、ご冥福をお祈りします。


編集後記と提案
 三好会員の遺志を継いで「つうしん」の編集を行うことになりました。事務局が把握している活動は上記のとおりです。他にありましたら、支部事務局までお知らせください。
さて、2011年3月の大地震・津波と、福島第一原発事故の後、県内の多くの人々から原発、放射能汚染と放射線計測、さらにはエネルギー問題についての講演や学習会講師依頼がありました。これまでは数名の会員で対応しておりますが、自然エネルギーの開発や東南海地震対策などの幅広い課題に応えるためには多くの会員の力が不可欠です。そこで、山口支部の会員の皆様へ提案があります。
  @ メールアドレス、専門領域(担当できる講演題目)を事務局にお知らせ下さい。
  A メールあるいはwebページで情報を迅速に交換するように事務局として努力します。
  B 支部独自の公開講演会を開催し、参加の科学者へ日本科学者会議への加入を訴えます。
 また、JSA活動活性化募金の振込用紙を再度添付しております。まだの方はご協力をお願いします。

(編集人:増山博行 mashi@sci.yamaguchi-u.ac.jp;  http://jsa-yama.at.webry.info/)

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