日本科学者会議山口支部ニュース 第168号(通算)(2013年7月1日)
つ う し ん
WEB版 2017 復刻

  

日本科学者会議第44回定期大会の概要報告

吉村 高男 (山口支部代表幹事、中国地区常任幹事)

 日本科学者会議(JSA)の第44回定期大会が、5月25・26日に、日本大学を会場にして開催された。現下の情勢は厳しく、経済のグローバル化の進展と新自由主義的政策の推進によって、各国で経済的・社会的な格差が生じている。9・11以来、「対テロ戦争」を続けた米国は、イラクに続きアフガンからも、「武力による平和」を築けぬまま撤退しようとしている。2012年末の総選挙で、改憲、「国防軍」創設を掲げる自民党が圧勝した。日本近郊の緊張感をもとに、日米同盟の意義の再確認、米軍基地や自衛隊の強化、集団的自衛権行使等の同盟強化が露骨に企てられている。また、東日本大震災と東電福島原発災害に対する復旧・復興は決定的に立ち後れ、原発の再稼働・新設・輸出、TPPへの参加、公務員や大学教職員をはじめとした大幅な賃金・退職金カットなど、グローバル企業の成長と国民生活の向上や経済の安定化との矛盾が深刻化している。今こそ、日本だけでなく地球的規模で、将来を見据えた持続可能なエネルギー開発、経済政策の創造が急務で、JSA会員の知恵を結集すべき時が到来していると言える。そこで、討論の内容は、(1)人類の生存と平和的繁栄のために研究を行い社会に働きかける、(2)高等教育と科学・技術の真の発展のために発言し行動する、(3)本会の全力を注いで組織を強化・活性化し科学者運動を発展させるという観点から、各支部等で実践した活動報告と今後の活動方針について議論が集中した。
 (1)については、岡山大学で「持続可能な社会への変革をともに」をテーマに開催された19総学の成功をはじめ、東日本大震災問題特別研究委員会の取り組みや、JSAの各種研究委員会及び各支部における様々な活動報告があった。第二次安部内閣は「教育改革」の総仕上げや「改憲」を正面から掲げて、第一次安部内閣で破綻した路線を急激に推し進めようとしていることへの懸念が示された。
 (2)については、国立大学法人化後9年が経過し、大学問題が深刻化していることが報告された。大学の機能別分化が進められることにより、大学の自治も危機に瀕している。さらに、法人法の趣旨に反して給与の7.8%削減が要請され、ほぼ全法人で給与が削減されている。大学を巡るこのような厳しい事態は、それを放置すれば、科学・技術の総合的発展に大きな障害となるばかりでなく、これまで培ってきた日本の学術と教育の体制を根こそぎ破壊する恐れがある。今こそ、JSAが危機打開のために行動すべき時と言える。しかし、全国の各支部、分会、職場において大きな活動の展開には至らず、今後の重要な課題の一つと言える。「日本の科学者」をさらに充実・普及することも地道な本会の活性化に繋がる。さらに、JSA50周年記念事業の一つと位置づけている「eマガジン」ライブラリーの充実・普及も本会の活性化に繋がるため、力を入れていく必要がある。
 (3)については、各支部での活動状況や会員拡大等について報告があった。必要なのは、やはり人的つながりであり、個々人の持つネットワークを活かすことが効果的である。山口支部でも4名の入会をはじめ、定年退職者の継続会員の増加など、明るい話題が続いており、中国地区の活動報告の中でもPRをしておいた。ただ、全般的には、現在の会員数が4,275名であり、目標の5,000名に達していない。JSA組織として経済的に安定するには5,500名の会員が必要である。JSA活動活性化募金による累計総額は、この3年間で目標の1,500万円を超えて終了したが、2013年度で組織維持引当金が底を突くため、収支の抜本的見直しを図る必要がある。そこで、期限付き・任意・登録制の定期寄付制度を2013年度から創設することになった。
 これらの討論を踏まえ、「東日本大震災−今こそ、被災者・被災地本位の復興への転換を訴える」、「原発災害を直視し、住民の安全確保と完全賠償を行い、原発ゼロの政策を推進せよ」、「アベノミクスの成長戦略を許さず、国民生活防衛の国民的連帯を進めよう」、「憲法96条改定とそれに続く全面改憲は断じて容認できない」、「日米同盟に基づく軍事強化と核兵器依存から脱し、平和で持続可能な社会をつくろう」、「法人化以来続く国立大学政策を転換し、学術と教育を回復させよう」、「APFファンド経営者による不当提訴を厳しく糾弾し、学問の自由・研究成果発表の自由を守り抜こう」の7つの大会決議文と、第44回定期大会アピール文が採択された。その後、新役員を選出し大会は閉幕した。 言された。

吉田キャンパス科学のつどい(第2回)成功裏に開催

 前号で紹介の「科学のつどい」第1回は4月24日に20余名の参加で開催。第2回目は、6月6日夕方、山口大学農学部において40数名の参加で開催された。
 今年、マダニが媒介するといわれるSFTSウイルスに感染した患者の報告が西日本で相次いでいる。過去に遡ると20名を越える感染者が確認され、半数近くが死亡という危険な病気で、まだ特効薬がない。我が国で初めてこのウイルスを分離し、感染者の存在を明らかにした山口大学共同獣医学部の前田教授はウイルス発見の経緯を話したのち、「ダニ媒介性感染症を考える」として講演した。
 4年前にこのウイルスが初めて見つかった中国の感染地帯では牛、ブタなどの家畜の半数近くが抗体を有し、ウイルスの遺伝子が血清中で見つかる割合も数%と報告されている。今回確認されたウイルスは中国のものとは遺伝子配列に差異があり、我が国でだいぶ以前に系統分化し、国内の野生動物にマダニの媒介により感染しているようだ。
 イエダニ類は家の中に普通にいて糞がアレルギー源となるが、危険な病は媒介しない。これとは種が大きく異なるマダニは森林や草むらに住んでいるので、そうした場所では肌を露出しない服装が必要。虫よけスプレーの主成分のDEETは有効であるが、副作用があるので我が国では薄めたものが市販されており、1〜2時間で効果がなくなる。蚊や蚤と違ってマダニにかまれても痛みや痒みを感じない。家人に背中などを目視してもらって、黒子のようなものが取り付いておれば噛みついている口の部分が残らぬようにピンセットで上手に取り除かねばいけない(皮膚科の医院に行くとよい)。
 マダニはSFTSウイルスのほかに、日本紅斑熱リケッチャやツツガ虫病を媒介し、患者総数としては後者の方が多いので、マダニにかまれて体調不良の場合は直ちに医療機関に行き、その旨、事情を説明しないといけない。海外旅行に行く人が増えているが、蚊が媒介する脳炎、デング熱、マラリアの感染者は極めて多数に及んでいる。「蚊意外」に危険。
 このようにウイルス学が専門で人畜共通感染症を研究している前田教授はこのように警鐘を鳴らして講演は終わり、活発な質疑応答があった。なお、山口県環境保健センターではホームページ
 http://kanpoken.pref.yamaguchi.lg.jp/jyoho/page9/dani_1.html 
でダニ媒介生疾患の予防を呼びかけている。


第3回科学のつどい「アベノミクスを考える」 馬田経済学部教授;7月12日17:45〜 山口大学経済学部で開催予定。


支部事務局から
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A支部会員59名の約半数は点在で、催し物案内などはメールでお知らせします。点在会員の方は下記の「つうしん編集人」あてにメールすることでアドレスをお知らせ下さい。
B 各分会、班の近況・取組について、「つうしん」で紹介しますので、メールで記事をお願いします。
C 支部の活動方針、予算決算、支部体制などについて、秋までには提案できるようにします。日本の科学者の配送以外に通信費を捻出できる余裕はありませんので、議案審議もメールで行う予定です。

JSA山口支部事務局
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