日本科学者会議山口支部ニュース 第170号(通算)(2014年1月1日)
つ う し ん
WEB版 2017 復刻

  

ごあいさつ

増山博行(支部代表幹事)

 昨年秋、支部大会議案を提示してメール批准をお願いしたところ承認され、支部代表幹事を務めることになりました。
 私がJSAに加入したのは大学院生の時でしたから40年ほど前、当時は若手の大学教員(益川先生他)の活動が教師でした。赴任した山口では林謙次郎先生を中心とする瀬戸内海および周辺の環境問題の取組、婦人や若手研究者の委員会など、旺盛な支部活動が展開されておりました。私も原子力問題研究委員会でリーフレットを作成するなどのお手伝いをし、その縁で、原発をつくらせない山口県民の会とも関わってきました。しかしJSA山口支部幹事などの役割は担うこともなく、2年前に大学教員の定年を迎えました。現在は非常勤の仕事と見習い百姓の日々です。
 さて、このような私がいても立ってもおられなくなったのは福島第一原発事故への国の対応のもたつきでした。定年の1年前で比較的時間的・精神的余裕もあり、志願して福島オフサイトセンターの指揮下での住民の一時帰宅にかかるスクリーニングの仕事に2度ほど参加しました。また、2年間で10数回の原発関連の講演依頼を受け、あらためて勉強し直しました。
 当初は原発事故の経過と今後の見通しについて、放射線の計測について、などの物理学を専門とする私が勉強してお話しできることが多かったのですが、そのうち、エネルギー問題や地域住民の支援など、経済、法律的な観点からの研究に基づいた内容の講演依頼が寄せられるようになり、山口支部の多くの会員あるいはその周辺の研究者の力を借りる必要性を痛感するに至りました。そのため、地域住民の科学者への期待に応えるには支部体制を立て直すこと、若い研究者層に入会を訴えること、その前提に経験豊かな会員の再結集をはかることが必要と考え、1昨年の暮れ以来、学習会の企画、支部つうしんの定期発行、入会案内の作成と勧誘活動、定年研究者へ会員継続のお願い、等を行ってまいりました。その結果、全国でも会員数が増えた数少ない支部となったと聞いております。
 しかしながら、JSA支部活動は極めて限られたところでしか展開されていないのが現状です。原発を巡っては小泉元首相が原発即時ゼロを訴える一方で、政府では原発を基幹エネルギーに位置づけ再稼働を後押しし、さらには政府主導で輸出する動きが強まっています。また、先の国会でまともな審議もなく成立させられた特定秘密保護法に続いて、共謀罪を創設し、憲法改悪への布陣を敷こうとしていること、集団的自衛権の行使や武器輸出解禁などの動向も看過出来ません。
 JSAは若者を再び戦争に送らないという科学者の思いで創設されました。戦争の足音が聞こえてきそうな時代にあって、支部幹事会は出来る限り情報を発信し、平和と民主主義を守る運動に連帯できるように努力する所存です。会員諸兄にあっては各人の持ち場で科学者魂を発揮され、その経験を共有し、新しい会員を迎えることができますよう、よろしくお願いします。

「積極的平和主義って何ですか?」 吉田キャンパス科学のつどい報告

 第4回吉田キャンパス科学のつどいが11月1日、教育学部第3会議室で開かれ、教育学部准教授松原幸恵さんが「積極的平和主義って何ですか?」と題して講演を行いました。山口大学関係者九条の会との共催で、連休に帰郷の卒業生を含め、30余席の会場は満員となりました。
 松原さんは、まず「積極的平和主義」には二通りの英訳があることを紹介しました。海外メディア等は直訳したactive pacifismという言葉で最近の我が国での議論を紹介しているが、一方、安倍首相が夏に訪米したときはproactive contributor to peaceと発言している。前者のpacifismという言葉は「戦争反対や暴力否定、良心的徴兵忌避あるいは反戦論」を意味するが、後者を直訳すれば「平和のために予防的な貢献をする国」という、全く異なる意味になり、「積極的平和主義」という麗句に隠された安倍首相の本音が現れている。
 次に、「平和」とは何かをまず明確にしなければならないと松原さんは続けました。狭義では物理的暴力を伴った戦争がない状態で、「消極的平和」というべきもの。もう一つ(広義)はガルトゥングが1969年に使った、抑圧や貧困、差別等の構造的暴力から解放され、本来の人権が保障された状態で、これこそが平和学で使われている「積極的平和」である。このように平和と人権を一体的に捉える観点から、第三世代の権利の一つである「平和への権利」や「平和的生存権」が唱えられている。
 日本国憲法には「平和と人権」に関する諸規定があるが、憲法前文は「恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利」という表現でまさに平和的生存権を明記している。この考えは1941年のルーズベルトとチャーチルの共同宣言(大西洋憲章)の中の、「全ての人類が恐怖と欠乏から解放されてその生命を全うすることを保障するような平和」という表現に示されている。近年では1978年のオスロ会議の最終文書で「平和への権利は基本的人権のひとつ」とうたわれている。さらに同年および1984年の国連総会決議でもみてとれる。
 日本国憲法において平和を論ずるときは、この前文と、13条の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」と組み合わせて9条を読み解かねばならない。9条1項の放棄している戦争は自衛戦争を含めた一切の戦争なのか、侵略戦争に限定するのかという解釈論争があるが、9条2項で一切の戦力と交戦権を否定しているから、結論的には一切の戦争を否定するという解釈しかない。実際、政府も当初はこのように解釈していた。
 憲法9条と前文の平和的生存権とを巡る注目すべき裁判が2つあった。1973年の長沼事件札幌地裁判決は平和的生存権を裁判規範となりうる権利として承認し、自衛隊は9条2項の「戦力」にあたり違憲であると判断した。その後の札幌高裁と最高裁で原告逆転敗訴となったが、自衛隊については憲法判断が回避されただけで合憲と認められてはいない。また、自衛隊イラク派兵差止名古屋訴訟の高裁判決では差止請求は却下されたが平和的生存権の具体的権利性は認められている。
 そして松原さんは自民党の新憲法草案(2005.10)と日本国憲法改正草案(2012.4)の平和と人権に関する条文案を現行憲法と比較して、@前文から「平和的生存権」がなくなっている、A戦争の放棄ではなく、軍事的安全保障、さらに集団的自衛権を指向している、B国民の権利よりも国民の責務を重視している、C近代立憲主義の「憲法は権力者に対する国民の命令」から真逆の国から国民への命令となっている、という重大な問題点を指摘しました。
 最後に、1945年のユネスコ憲章の前文を引用し、平和的生存権の重要性を訴えて、松原さんの講演は終わりました。その後、20分足らずでしたが、聴衆から質問、コメント、大阪での九条の会の取組、などの発言が活発になされました。
 特定秘密保護法案が国会で審議されていた時、国民主権をないがしろにし、戦争をする国に変えてしまいたいという意図で秘密法とつながった安倍首相の「積極的平和主義」が松原報告ではっきりと示されました。

「原子力発電問題全国シンポジウムin福島」の概要報告(後編)

吉村 高男 (全国幹事)

 野口邦和氏は「放射線被曝について何があきらかになったか」と題して講演された。福島事故では、初期被曝で問題となる131Iはチェルノブイリの10分の1以下、長期被曝で問題となる137Csは約6分の1が大気に放出され、それらの7割〜8割は太平洋上の海に降下したと考えられている。福島事故では、揮発性の放射性I、放射性Cs、放射性Teが主で、揮発性と不揮発性の中間に相当する90Srや、不揮発性の239Puなどは、ほとんど放出されなかったと考えられている。福島県は、被曝線量が相対的に高かった事故直後4ヶ月間の県民の外部被曝積算量を、最高値は相双地区の住民で25mSv、その他の地区の最大値は県北11mSv、県中5.9mSv、県南2.6mSv、会津3.6mSv、南会津1.6mSv、いわき3.9mSvと推計している。野口氏は本宮市の外部被曝線量の調査をされている。0歳から15歳までの3700人に対してガラスバッチを体に付け調査したところ、平成23年9月~11月の3ヶ月間で平均0.63mSvであったが、平成25年に入って3ヶ月間調べたところ平均で0.29mSvになったこと、さらに、幼稚園や小学校における除染で空間線量も半減することなどが報告された。比較的、低線量地区における調査協力者の割合が1〜2割と低く、協力者の割合を増やす努力も必要だと強調された。内部被曝については、β線の影響が高くなるが、本来体内にある40Kの強さに比べればかなり低いことも示された。ただ、多くの労働者が福島第一原発の敷地内で作業をしており、200mSvを超える労働者が6人出たのをはじめ、100mSvを超える人も出ており、労働者被爆問題についても注視する必要がある。また、甲状腺被曝については、17万5499人の検査を通して悪性、または悪性の疑いの強い28人の子どもが見つかったが、今回の原発事故による被曝との関連性は非常に低いことなどが述べられた。
 第1日目の最後は、本島薫氏による「事故現場はこれからどうなるか」と題して講演があった。原発事故から2年半近くなるが、炉心溶融した燃料を冷却する冷却水は放射性汚染水として増大し続けており、地下貯水槽や貯水タンクからの相次ぐ漏洩、さらには汚染水の海への流出は事態をさらに深刻にし、廃炉への展望はもとより、事故処理さえ困難なものにしている。地下水対策についても凍土遮水壁などが考えられているが抜本的な解決に繋がるものではない。水理地質構造と地下水挙動の把握がまず重要で、凍土遮水壁についても技術的検証をしっかりする必要があることが述べられた。さらに、2020年度上半期に開始するとしている燃料デブリの取り出しについても、その場所や状態の確認、原子炉及び格納容器の破損箇所や状態を特定して修理を行い、それらを冠水する必要がある。これらのことは、人類史上未経験のことであり、関連学会の学術的総意の結集を提言された。
 2日目は、第1分科会「除染と廃棄物処理をめぐって」に参加した。山田國廣氏は「除染の技術と効果−地域循環型除染の提案」と題した講演の中で、@高圧水洗浄など明らかに洗浄効果がない手法の採用、A土を大量に除去しているため膨大な除去物が発生していること、B仮置き場、中間貯蔵地、最終処分地の明確な確保ができていないことなどを踏まえ、現在の除染手法は全く破綻していることを強調された。それに代わる方法として、簡単な道具で、安く、地元住民が手近にできて除去物を近場に置き、低減効果も大きい「地域循環型除染」の提案があった。固い素材に浸透した放射性物質の除去法については、クエン酸入り界面活性剤のキレート効果を利用し、素材に浸透していた放射性セシウムを洗い出す手法や、土壌などの除染法に関する解説があった。
 続いて、伊達市役所の放射能対策政策監の半澤隆宏氏から「地域の除染及び除染廃棄物処分の課題」と題した講演の中で、除染作業の中でいかに多くの放射性廃棄土壌が出るかを具体的に示された。土質や周囲の環境にも左右されるが、一般に表面から5cmの土壌を剥ぎ取れば、70%強の放射能低減率があると言われている。1軒の除染で約20tの廃棄土壌が出る。約22,000世帯の伊達市の宅地だけで44万t、道路や田畑、山林まで考えると絶望的な値になることは明らかである。次は、仮置き場に保管している廃棄物の中間貯蔵施設への運搬が問題になる。10tトラックを数十台用意して運んでも1年かかると言われている。膨大な土壌を削り取ることは自然破壊にも繋がる。しかしながら、除染なくして福島の復興はあり得ないと結ばれた。
 最後に、舩橋晴俊氏が「高レベル放射性廃棄物処分場問題−学術会議の「回答」を検討する」と題した講演があった。よく知られているように、原発は正常に運転が続くと、高レベルの放射能を持った所謂「死の灰」が核燃料棒に溜まる。この使用済み核燃料棒から継続的な崩壊熱が出るため、冷却を続けなければならない。福島第一原発においても大きな問題の一つになっている。これらをいかに処理・処分するかが原発の運転を開始した当初からの大きな課題である。2012年9月に学術会議は「暫定保管」及び「総量管理」を柱とした政策枠組みを再構築することなど、6つの提言をまとめて、原子力委員会に提出した。これらの内容の修正を含む、社会的合意形成のための多段階意思決定の手続きが必要なことを提案された。
 ところで、今回、筆者は「シンチレーション・サーベイ・メーター」を携行し、飛行機の機内や東北新幹線内に於ける空間放射線量率の変化をはじめ、福島市や郡山市の空間放射線量率(地上1m付近)の計測を行った。福島駅前及び市内が0.1μSv/h前後の値を、郡山駅前が0.3μSv/h前後の値を、郡山市内が0.1μSv/h前後の値を示した。草地の水の溜まりやすい場所や斜面の下で枯れ葉が溜まっているところなどは1〜2μSv/hの値を示した。福島大学構内は0.3〜0.4μSv/hの値であった。上空を飛んでいる飛行機の機内の窓側で0.2〜0.25μSv/hの値を示した。さらに、山口宇部空港及び羽田空港の地上では0.03μSv/h前後の値であったが、飛行機が上昇する時と、降下する時には0.01μSv/h以下の値を示す間があり、地上からの放射線と宇宙からの放射線の影響が弱まる高さがあることが分かった。
 現在、我々は大震災、原発事故による大災害からの復興を目指しているわけであるが、現地に入り分かったことは、様々な状況の中で住民の不安感が不信感に繋がり、自治体内の合意形成さえできず、行政側との対応がうまく進んでいないところも多く出てきているということである。今までの行政側の震災対応に対する住民の不満もある。様々な状況の多様性を認めて、住民の合意形成を求めるだけでなく、行政レベルで将来を見据えて、政策としていかにスピーディに復興を成し遂げていくかが問われている。日本科学者会議の持つ潜在力を大いに発揮すべき時でもあることを実感したシンポジウムであった。 (前編は「支部つうしん」第169号に掲載済み)

JSA山口支部総会(メール批准)の結果    事務局

「支部つうしん」第169号で、2011年以降の支部活動報告、会計報告、2013年度の支部役員体制、活動方針、予算の案を提示し、E-mailもしくは郵便による批准投票をお願いしておりました。その結果、4月当初の支部会員59名のうち、33名の会員から承認するとの回答があり、役員、方針、予算は批准されました。現在は引き続き、財政の健全化に向けての取組を続けているところです。なお、メールアドレスが事務局に登録されていない会員からの批准投票がありませんでした。メールアドレスをお知らせ下さるよう、重ねてお願いします。
 支部役員体制は提案通り

支部会員の年会費、および、原則として1月末までの前納とすることは提案通り

山口大学 「吉田キャンパス科学のつどい」(第5回)の開催予定(学内外からの来聴歓迎)

 1月もしくは2月に、山口大学准教授の滝野先生(会員外)に「中国の最近の様子」に関して報告して頂く予定です。開催日時・場所は確定次第、下記のつうしんのURLに掲載します。


JSA山口支部事務局
   〒753-8511 山口市吉田1677-1 山口大学教職員組合気付
  Tel 083-933-5034  Fax 083-921-0287  e-mail fuy-union@ma4.seikyou.ne.jp
つうしん第166号以降は、暫定的に次のURLから閲覧できます。パスワードは紙媒体の「つうしん」の編集後記に記載
    URL http://www.e-hagi.jp/~mashi803/jsa/index.html

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