日本科学者会議山口支部ニュース 第179号(通算)(2017年6月1日)
つ う し ん
WEB版 2017-6-1

 

 全国大会にあたり、山口支部には代議員1名の選出依頼がありました。昨年の支部大会の決定に基づき、吉村氏が山口支部の代議員として参加しました。以下、その報告です。

日本科学者会議第48回(53期)定期大会の概要報告

吉村高男(JSA山口支部 全国常任幹事)

 日本科学者会議(JSA)第48回定期大会は5月27日(土)・28日(日)に、中央大学理工学部を会場にして開催された。この大会では、会員数が4000人を切り、3800人になったことがまず報告され、2日間の各支部からの代議員による審議・協議により、2016年度(52期)活動報告と決算、及び2017年度(53期)活動方針と予算が採択された。また、53期の全国幹事59人、会計監査2人、全国参与17人を決定・承認された。全国幹事の推薦が間に合わなかった3支部については、大会の休会中に53期第一回幹事会が開催され、常任幹事会に委権することが報告された。同時に幹事会では、代表幹事3人、常任幹事25人を互選し、「日本の科学者」編集委員の承認があった。さらに、幹事会途中の53期第一回常任幹事会で事務局長(井原聡氏)、事務局各役員や、「日本の科学者」編集委員長(長野八久氏(大阪支部):中国地区担当)が互選された。
 なお、山口支部は今年度が常任幹事の当番県で、今年度と来年度に「日本の科学者」編集委員(森下徹会員)及び中国シンポの担当県になっているため、山口支部会員の皆様方のご協力をよろしくお願いします。
 ところで、現在のJSAには深刻な財政問題があるが、民主的な科学者運動を続けているJSAとしては、その活動力を低下させることはできない。従来から掲げている(1)人類の生存と平和的繁栄のために研究を行い社会に働きかける、(2)高等教育と科学・技術の真の発展のために発言し行動する、(3)本会の全力を注いで組織を強化・活性化し科学者運動を発展させる、(4)「日本の科学者」を充実・普及する、という観点から各支部等で実践した活動報告と今後の活動方針について議論と確認が行われた。
 さらに、昨年度の52期においては、事務局本部役員と常任幹事会を中心に、3つのワーキンググループ(組織改革WG、研究基金/財政/会計処理WG、専従職員問題WG)が設置されたが、そこでの討議内容が報告された。後者2つのWGによる内容については承認されたが、組織改革WGから提案された、現行の全国幹事会を廃止して常任幹事会に一本化し、それを幹事会と呼ぶことや、地区の位置づけを明確化して再編する、などの組織改革案については採択せず、継続審議となった。
 大会では、(1) 防衛省による「安全保障技術研究推進制度」に反対し、戦争のため研究協力は断固拒絶する(2) 原発ゼロ社会の建設にむけて(3)「共謀罪」法案の廃案を強く求める(4)「安倍改憲」を許さず、日本国憲法の理念に基づく日本社会を(5) 米軍辺野古新基地のための埋め立てを中止して原状回復を求める、の5つの大会決議文が採択され、大会は終了した。


支部幹事会の緊急問題提起

山口大学は「安全保障技術研究」を推進する立場なのか

 5月9日に開催された山口大学教育研究評議会において、「防衛省等との研究協力に関するガイドライン」が定められたと11日付で学内に通達された。ガイドラインは「基礎研究であり、かつ、明確に軍事目的(防衛目的を含む。)ではないということが判断されるもののみを受け入れる」として、申請者に8つの内容確認のチェックを求めている。しかし、日本学術会議が軍事研究について真摯な警告を発したのとは異なり、山口大学では学内申請を19日に締め切り、「審査」を経て5月31日の「安全保障技術推進制度」応募締め切りに間に合わせるという、まさにアリバイ的な手続きを合理化するためのガイドラインではないかという声が出ている。
 山口大学のガイドラインは防衛省等との研究協力一般に関するものであるが、ガイドラインに添えられた研究内容の確認項目を焦眉の安全保障技術研究推進制度に限ってみると、矛盾をはらんだ内容となっている。
 大学側は許されるのは基礎的研究であり、その定義は「自然現象又は実測された事実のより良い知識や理解を得るための系統的な基礎的研究で,研究成果の軍事用途は直接的に想定されない。」としている。しかし、防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度公募要項1)では募集している「基礎研究」とはそのような定義ではないと明記したうえで、「将来の応用における重要課題を構想し、根源に遡って解決法を探索する革新的な研究であり、技術指向型の基礎研究」、つまり防衛技術に応用可能な「軍事研究」に関するものとして30のテーマ2)をあげ、この課題に大学が参画することを求めている。すなわち大学の研究者を軍事研究のラインに組み入れることを目論んでいると批判されるゆえんである。
 こういう事態が進むと、大学の変質が進む虞があるが故に、日本学術会議は3月24日に軍事的安全保障研究に関する声明3)を出している。この声明で求めている「ガイドライン」と山口大学のものとは似て非なるものであることは日本学術会議の声明を読めば明らかである。
 そもそも山口大学は山口大学憲章4)では、「W 私たちの責務」として
2 社会が抱える問題解決への寄与
私たち山口大学は、20世紀の時代が繁栄と豊かさをもたらす一方で、自然環境の破壊や貧困・飢餓・戦争など、多くの社会問題が表出した時代であったことを認識し、21世紀の今日にあっては、これらの矛盾の解決のために英知と勇気を役立てます。
3 地域社会の発展と国際社会への貢献
私たち山口大学は、心豊かな教養人と優れた専門的知識・技術を持った人材を育み、地域社会の発展と国際社会の平和に貢献し、人類の幸福に寄与します。
と謳っている(下線は引用者)。この立場に立つならば、形式的な山口大学のガイドラインへ適合するという形式的判断でもって安全保障技術研究推進制度にのることは許されるであろうか。  今回のガイドライン案の作成や、審査委員会については大学の多くの人々の目には触れない非公開の場で進んでいる印象を受ける。少なくとも、意見が分かれる安全保障技術研究を倫理的検討もなく、形式的な8項目へのチェックでゴーサインを出すことはあまりにも拙速である。学長はガイドラインおよびこれに基づく審査を凍結し、日本学術会議の声明の趣旨で再検討を提案すべきではなかろうか。

2017年5月13日
日本科学者会議山口支部幹事会

1)http://www.mod.go.jp/atla/funding/h29koubo_honsatsu.pdf
   2)http://www.mod.go.jp/atla/funding/h29koubo_ bessi1.pdf
  3)http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-h170413.pdf
   4)http://www.yamaguchi-u.ac.jp/ info/18.html


 幹事会は上記の問題提起をメール審議により了承し、山口大学の教職員向けビラを発行するとともに、県庁記者クラブにて発表しました。その結果、中国新聞社が取材して5月26日付の山口版に記事が載りました。
 前後して、元会員の纐纈厚氏(山口大学名誉教授)から寄せられたコメントを掲載します。

大学の使命は何処にあるのか 〜軍学共同路線に便乗する山大のガイドライン案〜

 「山口大学における防衛省等との研究協力に関するガイドライン(案)」は、要するに軍事的研究を容認する内容であり、戦後平和憲法下における大学の根本的な役割が何処にあったのか、またあるかについての省察を欠落した危険極まりない内容である。敢えて言えば、極めて事務的な内容であって、それは大学に求められている社会からの期待を放棄するに等しい内容だ。
 取り分け「2.研究協力の取り扱い」の?にある「基礎的研究であり、かつ明確に軍事目的(防衛目的を含む。)ではないとうことが判断されるもののみを受け入れる」の箇所は問題が多い。つまり、軍事技術の知識があれば直ぐに理解されることだが、全ての軍事技術は基礎的研究を成立要因としており、基礎的研究から応用的研究は表裏一体のものである。そこに線引きすることは形式以上のものでしかない。また、軍事兵器に攻撃兵器と防衛兵器の区別もできると捉えるのも無理がある。何よりも、山口大学で「軍事目的ではない」と一体誰が、如何なる見識を踏まえて判断するのだろうか。それは困難な課題であり、実際上は不可能な領域だ。
 その問題以上に重要な事は、日本の大学もアメリカの大学と同様に、大学研究費の不十分さを補完するように、潤沢な資金が防衛省の「研究資金提供制度」により大学に流入する、所謂軍学共同路線が敷かれようとしていることだ。これは、日本の平和と学問の自由にとり、危険極まりないことである。
 「研究式提供制度」を管掌する防衛整備庁は、大学研究者が防衛省の資金で行う研究成果は機密性が求められることを理由に、特定秘密に指定する意向を明言している。これは文科省の科研費が公開を原則としているのと正反対の動きだ。特定秘密保護法が成立している現在、公的資金を受けた研究成果の公開性の原則が、この法律で封印されてしまうのである。つまり基礎的研究であれ、応用的研究であれ、防衛省が提供する資金を使った研究は、秘密のベールに包まれることになるのである。そうした新たな状況を踏まえて判断する姿勢が、当然ながら大学や研究者自身に求められている。山口大学のガイドライン案は、こうした新たな状況に全く無頓着であるばかりか、十分な議論がなされたとは思えず、政府・防衛省の方針を唯々諾々と受容する没主体的な姿勢と言わざるを得ない。それは、多くの平和を求める国民の信頼と、何よりも大学の使命を裏切る行為と指摘できよう。
 周知のように、現時点でも広島大学や長崎大学など多くの国立大学、明治大学や法政大学など、本制度を拒否することを決定している大学が続々と名乗りを上げている現実を直視して欲しい。そして、戦前の教訓を活かしつつ、軍学共同路線に正面から異議を唱え、平和創出の知の拠点としての大学の使命を再確認すべきであろう。

 纐纈厚(山口大学名誉教授)


編集後記

  前号が出てから、半年が経過しました。この間のその他の取組は次号に回し、取り急ぎ発行します。

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