日本科学者会議山口支部ニュース 第180号(通算)(2017年8月1日)
つ う し ん
WEB版 2017-8-16

 

2017年度(53期) 第1回JSA中国地区会の概要報告

吉村高男(JSA山口支部 全国常任幹事)

 標記の地区会が7月15日(土)に岡山市で開催された。最初に、私から第2回常任幹事会で議論されたことを報告した。特に、決定した各種会議日程、2017年度の予算、全国の会員数状況、一般会計・研究基金の貸借対照表、組織活動費予算、JSA会計規則、「日本の科学者」論文賞選考規定、JSA情報通信室の設置、及びJSAの活性化に向けた4つの作業部会(第1部会:会則・憲章部会、第2部会:研究基金・会計部会、第3部会:名簿部会、第4部会:役員部会)が、昨年度の3つのワーキンググループに変わり、新しく常任幹事会に設置されたことなどを報告した。作業部会の中で、継続審議になっている第1部会の幹事会・常任幹事会の位置づけ、地区会議の会則上の位置づけ、分会・班等の位置づけ、会員の定義、会則の前文を発展させて憲章をつくることは大切なことで、私もその部会に参加することになった。
 続いて、各支部の活動状況と課題について報告があった。ほとんどの支部で新入会員が得られず、幹事会も定期的になかなか開催できない状況が続く中、岡山支部では定期的な幹事会やよもやま話の会を実施し、6人の新入会員の入会を得るなど、全国的にも注目を集める活動が続いている。山口支部も増山代表幹事のおかげで、科学の集いやYU学び舎の会が継続的に開催されていることを報告した。改めて、JSA会員一人ひとりの創意と自発性が発揮できるように、研究者としての専門性を活かすべく、様々な仕掛けを用意し、民主的な運営に努める中で、会員の拡大に繋げていく必要があることを出席者全員で確認し、閉会した。


共謀罪法案に反対の声明が発表される

 5月31日に学内で開かれた「「共謀罪」と「テロ等準備罪」について考える」の討論集会で、参加者は共謀罪反対の声明を出すことを決まりました。そして1週間で集まった山口大学関係者77名の賛同者名を添え、代表の外山名誉教授が6月7日に記者発表し、同時に国会および各政党にFAXで伝えました。
 短い期間に多くの賛同が得られたことは法案に危惧している人々が多いことを示しています。このニュースは6月8日付の中国新聞と山口新聞で報じられました。


声明

市民の自由な行動を阻害する「共謀罪」の創設は絶対に許さない

 今国会で、いわゆる「共謀罪」を盛り込んだ組織的犯罪処罰法等の改正法案が審議されています。政府はこの犯罪の創設理由として、東京オリンピック・パラリンピックの開催を3年後に控えた我が国において、テロを含む組織犯罪の未然防止に万全を期す必要から国際組織犯罪防止条約(TOC条約)を締結することが急務であると説明しています。そして、規制するのはあくまで「テロ等準備罪」なのであって、かつて3度廃案になった「共謀罪」法案とは異なることを強調しています。
 しかし、こうした政府の説明を額面通りに受け取ることはできません。なぜなら、当初の法案ではテロリズムについての言及は何もなく、世論等の批判を受けて「組織的犯罪集団」の前に「テロリズム集団その他の」との文言を付け足した経緯があるからです。そもそも、テロ対策について、国連はTOC条約によってではなく、「爆弾テロ防止条約」や「テロ資金供与防止条約」をはじめとする13の別の条約によって行っています。実は日本も、これらの条約に対応する国内立法化と条約締結を済ませています。また、当初の法案では676あった対象犯罪を277にまで減らしたとは言え、そのうちテロの実行に関するものは一部にとどまることも考え合わせると、テロ対策を主目的とした法案でないことは明らかです。
 そうなると、テロリズム集団以外の「組織的犯罪集団」が何を意味するかが問題となりますが、この点について、政府は暴力団、薬物密売組織等を例に挙げ、一般市民が対象となる可能性は全くないかのような印象を与えようとしています。しかし、法案の文言自体、対象を明確に限定しているわけではなく、政府側の説明も一貫していないことから、一般市民が処罰されるおそれも排除できません。
 現行刑法は犯罪の実行に着手したことに対して罰することを基本としています。この原則の意義は刑罰の対象となる行動範囲を限定することで、その範囲外については自由に行動できることを市民に保障する点にあります。それに対し、本法案は実行する前の段階にまで踏み込み、刑罰の範囲を拡大しています。すなわち、2人以上で「計画」(共謀)し、その「準備行為」を行った者を処罰するというものです。しかし、犯罪行為にまだ着手していない段階で、何をもって刑罰の対象となる「準備行為」とみなすのか、法案の文言が曖昧である以上、結局は、捜査機関の恣意的な判断に委ねられることになりかねません。加えて、メールやLINEなどによっても犯罪の計画(合意)が成立するとした政府答弁を鑑みるに、計画・準備段階での犯罪を摘発するためとの名目で、盗聴捜査をはじめ、当局による監視の眼が私たちの生活に深く入り込んでくる可能性も危惧されます。
 このように、運用面において法律を適用する側の権限が濫用される危険性があるということは人権保障を大きく後退させるという意味で、極めて重大な問題です。また、市民の側においても、どんな場合に罪に問われるか分からない状態は不安感や日常の行動への深刻な萎縮効果をもたらします。これは個人の問題にとどまらず、重要な政治課題に対し、市民が主体的に考えて行動する機会を損なうものでもあり、民主主義の危機にもつながります。そうした危険な法律は存在すること自体が問題です。断固、法案の廃案を求めます。
2017年5月31日
山口大学関係者有志

共謀罪法案等に反対し、支部協賛のミニ講座「YU学び舎」が相次いで開催される

 第3,5,6講について、報告します。

第3講 (1月18日) 安保法制違憲訴訟の意義

 2016年12月26日、「わや、しちゃー、いけん(悪いことをやってはいけません、の長州弁で、違憲と掛けている)」と県民116名が安保法制の違憲訴訟を山口地裁へ提訴した。この訴訟の弁護団の代表である内山弁護士による学習会(ミニ講座)が17年1月18日に山口大学構内にて「YU学び舎」主催、JSA山口支部協賛で開かれました。
 内山弁護士は、「新安保法制」の成立によって憲法が保障する平和のうちに生存する権利などが侵害されたことに対して、国家賠償請求権に基づく慰謝料請求の訴訟であり、全国で15の提訴がされているうちで13番目のものであると説明。
 一昨年来の内閣と国会の暴挙に対しては、安保法制は違憲である、決定のやり方が立憲主義に反する、と保守党を支持する弁護士が多数である全国の日弁連の県連(総理のお膝元で、高村副総裁が会員である山口県連を含み)で反対の決議がなされていた。憲法学者や判事の多くは同様な見識である。行政(内閣)と立法(国会の多数派)が立憲主義を壊した暴挙に対して、三権分立の一翼を担う司法(裁判所)に憲法の番人としての役割をはたさせるのが目的である。そのため、原告団、訴訟を支える会をしっかりと組織し、原告の個々人の権利侵害の内容を具体的に主張したい。
 約1時間の講演に引き続いて、会場の市民から質問にたいして活発な議論が行われました。3月以降に予想されている第1回弁論まで、原告をふやし追加提訴の予定であること、判事の交代がなければ勝訴の可能性が十分なことなどが話されました。

 学習会主催の「YU学び舎」は昨年秋に大学のOB教員(元JSA会員)を中心に「市民・学生・教職員だれでも自由に学び討論できる場」として組織され、今回が3回目で、毎回20余名の参加者(半数以上は学外の市民)です。学生に参加を広げていくことが課題となっています。(日本の科学者4月号、科学者つうしん  寄稿文)

第5講 (5月31日) 「共謀罪」と「テロ等準備罪」について考える

 4月号の「科学者つうしん」に報告の1月の講座の後,3月に安斎育郎氏の講演会「福島のいま」,4月には「原発に関わる3つの話題」のミニ講座を開催しました。
 第5回目となるミニ講座は「『共謀罪』と『テロ等準備罪』について考える」というテーマで5月31日,山口大学教育学部にて開催され,市民を含めて24名が参加しました。憲法学が専門の松原会 員が国会で審議中の法案はどういうものなのか,テロ対策と関係があるのか,これが成立したら現行刑法の原則の大転換となり市民の自由な行動を阻害するおそれがあるのではないか,と問題点を述べました。さらに,わが国では1970年以来13のテロ防止関連条約を締結済みであり,国際組織犯罪防止条約に不可欠と言う政府の根拠はないと指摘し,国連人権理事会のジョセフ・カナタチ特別報告者が政府へ提出した危惧の念の書簡も紹介しました。
 この基調報告を受けて参加者の活発な質疑・意見発表が行われました。講座の最後に反対声明の文案が提案され,賛同者を集めて国会並びにマスコミに発信することが提起されました。
 そして1週間後に77名の山口大学関係者の賛同を添え,「市民の自由な行動を阻害する『共謀罪』の創設は絶対に許さない」との反対声明を記者発表すると同時に,両院議長および主要政党宛てにFAXを送信しました。(日本の科学者9月号、科学者つうしん、寄稿文)

第6講 (7月26日) 安倍改憲構想の意図するもの:安保県連法制と自衛隊の動きに絡めて

 山口大学元教授で政治学者の纐纈厚氏を話題提供者として、30名近くの参加者を集めて山口大学理学部のセミナー室で7月26日の夕刻に開催されました。まず、纐纈氏のお話:
 今回のテーマが決まった時点では、憲法9条に第3項を付け加え自衛隊を明記するとの、5月3日に打ち出された「安倍改憲構想」が具体的に議論される夏を迎えるという状況であった。日本会議のブレーンに支えられた安倍総理の目論見は、改憲論者が少なくない民進党だけでなく、戦後の護憲運動にまで楔を打ち込み、改憲多数派を形成して、年末総選挙、国会での改正案審議、そして国民投票を展望したものであった。
 しかし、7月2日の東京都議会選挙で自民党が大敗し、安倍一強の体制でゴリ押しできる政治環境ではなくなってきている。もともと安倍のやり方には自民党の中には異論があった。加計問題の国会閉会中審議で露呈した総理の失態もあり、今後はポスト安部をにらみつつ、自民党の「改憲草案」(欽定憲法復活)をベースに改憲論の再構築が図られるのではなかろうか。その際、アメリカの軍事時戦略も見ておかねばならない。集団的自衛権を求めたアメリカであるが、「改憲草案」にはオバマ政権は批判的であった。ぐらついているトランプ政権はどういうスタンスなのか?
 アップデートな話題は陸上自衛隊の日報隠しの問題である。稲田大臣には失言や資質の問題がある。日報の存在の報告を受けた稲田大臣は聞いていないと発言し秘匿をはかったが、陸自の内部からリークがあった。自衛隊は文民統制されるというが、文民とはcivilianであり民主主義の具現者が判断するということ。しかし「血を流す覚悟がないと日本人ではない」と公言する稲田大臣は思想軍人であり、民主国家の文民統制になじまないことがそもそもの問題である。次の防衛大臣が日報問題にどういう態度で臨むか注視したい。今の事態を一言でいうと、「暴走する陸自、対する稲田、ハラハラ見ている背広組の文官」となるか。これまで米軍有事駐留論を唱えた政治家(鳩山由紀夫、小沢一郎、田中角栄)は追い落とされたことも想起されよう。
 北朝鮮の核開発やミサイルが問題視されているが、朝鮮半島の休戦協定に反して60年代にアメリカが核を半島に持ち込み、最近では北に侵攻する想定の米韓合同軍事演習をやっている。イラクやリビアでの政権転覆の事例を見ている北の指導者はこれが怖くてたまらない、核やミサイルに走るというのが現実である。アメリカの軍事戦略の中で我が国は平和戦略を打ち出すことこそが必要である。

 時間を超過する、ペーストを交えた熱弁のあと、質疑応答が行われました。
Q: 日報問題で陸自内部からの告発をどう見るのか?
A: 公務員である自衛隊員といえども公益通報権がある。が、背景には陸自が粗末に扱われているという不満がある。陸自による紙のクーデターということができるかもしれない。
Q: 韓国文大統領の北融和政策に対する反応は?
A: 南の若い人の思いは、Is this an alliance? Get lost with your THAAD! (これが同盟関係か、サードを持って失せろ)である。
Q: 自衛隊の制服組と背広組の関係はどうなっているのか?
A: 防衛省設置法の改正で背広組上位から制服組が並列に位置するように変わった。実態は制服組の方が優位に発言することが多くなっている。
Q: アメリカは北をどうしたいのか、また中国はどう考えているのか?
A: アメリカはいずれ南北統一に行くとみている。しかし、アメリカが介入できないような自主統一はダメだというだろう。半島は現在も休戦状態なので、戦時指揮体制が継続しており、米軍人が総指揮権を握っている。南北をアメリカ好みの統一国にするのが目標だろう。統一後は1億近い人口で、地の利もあり、統一後のベトナム以上に経済力を発揮するので、アメリカのコントロールは欠かせないとみている。
 中国にとっても朝鮮半島は経済的に強い影響力を発揮したい場である。つまり、ここはeconomic warの戦地ともいえる。朝鮮の人々は東西の大国からの新植民地支配を望んではいない。戦後処理で日本本土が分断される代わりに、大国の思惑で朝鮮半島が分割支配になったという歴史認識を朝鮮の人が持っていることに日本人は無知ではいけない。
 予定を15分オーバーしたところで、警備員が部屋のロックに来たこともあり、ミニ講座はお開きになりました。

 YU学び舎では9月28日に,獣医学部新設問題を取り上げる予定となっています。


3月18日に開催された安斎講演会「福島のいま」の実行委員長からのお礼の手紙です。

安斎育郎講演会への賛同および協力のお礼

この度は、安斎育郎講演会への賛同・協力ありがとうございました。3月18日は、諸行事と重なり十分な参加者が得られるか心配する向きもありましたが、お蔭で230名の方々の参加で成功させることができました。
 多くの方が、お帰りの時「参加してよかった」「元気が出た」「わかりやすかった」とわたしどもに声をかけてくださいました。当日の感想文にも、そのような意見が多くありました。
 「福島のいま」題し、「福島のいまとこれから」、「山口のいまとこれから」を考えるヒントにする内容はいろいろ考えられると思いますが、このたびの講演会は、それを考えるにふさわしい内容であったとともに、前向きの頑張ろうという気持ちを持つことのできたものでした。
 講演会を企画した実行委員みな開催してほんとによかったと感じています。
しかし、福島の原発事故は終わっていません。福島には復興というには程遠い現実があります。また、全国各地の原発再稼働や上関の新規建設の動きなど福島原発事故がなかったかのような事態が進みつつあります。
 わたしたちは、この講演会で学んだことを活かし、原発ゼロに向け今後とも頑張りたいと思います。ともにがんばりましょう。有難うございました。
2017年3月26日

安斎育郎講演会実行委員会 代表 外山 英昭

支部活動日誌

 2016年12月以降の支部および支部会員が関わった活動は次の通りです。
・12月21日 ミニ講座「YU学び舎」第2講、溝田会員が「最近の世の中で進行していること 〜非営利株式会社 市民共同発電うべの設立をめぐって〜」を話題提供
・1月18日 ミニ講座「YU学び舎」第3講、内山会員が「安保法制違憲訴訟の意義」を話題提供
・2月下旬 軍学共同反対連絡会の「防衛装備庁に「安全保障技術研究推進制度」の廃止を要請し、 各大学・研究機関に応募しないよう求める緊急署名」を支部としても取り組み、市民を含め200名の署名を集める
・3月18日 安斎講演会「福島のいま」を共催し、カリエンテ山口に230名の参加者
・3月25日 上関原発を建てさせない山口県民大集会、 山口市維新百年記念公園にて
・4月26日 ミニ講座「YU学び舎」第4講、君波元会員が「原発に関わる3つの話題」を話題提供
・5月13日 支部幹事会の声明「山口大学は「安全保障技術研究」を推進する立場なのか」を発表
・5月27, 28日 全国大会に吉村会員が代議員として参加
・5月31日 ミニ講座「YU学び舎」第5講、松原会員が「「共謀罪」と「テロ等準備罪」について考える」を話題提供、24名参加
・6月3日 第21回原発をつくらせない山口県民の会総会および学習会(増山会員参加)
・6月7日 「市民の自由な行動を阻害する「共謀罪」の創設は絶対に許さない」との声明を公表。支部は声明に賛同する団体として名を連ねる
・7月15日 JSA第53期第1回中国地区会議(岡山にて、吉村会員参加)
・7月26日 ミニ講座「YU学び舎」第6講、纐纈元会員が「安倍改憲構想の意図するもの:安保県連法制と自衛隊の動きに絡めて」を話題提供、市民を中心に25名の参加

編集後記

 これも地球温暖化の影響でしょうか、少雨と思えば、土砂降り雨。梅雨明け後は暑い夏。皆様にあってはお変わりないでしょうか。
 ところで、前号で取り上げた山口大学における軍事研究について、7月9日のNHKのローカルニュースが2か月遅れで報じていました。なんで今頃?と、いぶかしく思っていたら、再度、7月11日の教育研究評議会で防衛省等との研究協力に関するガイドラインが提示されたそうです。
JSA山口支部事務局
   〒753-8511 山口市吉田1677-1 山口大学教職員組合気付
  Tel 083-933-5034  Fax 083-921-0287  e-mail fuy-union@ma4.seikyou.ne.jp

付録

ミニ講座「YU学び舎」第7講 開催予定のお知らせ

 次回、第7講は加計学園の獣医学部設置問題を取り上げます。
話題提供者は元山口大学獣医学教授の中間實コさんで、忌憚のないメスを入れるお話が予定されています。
  日時 9月28日(木) 17:30〜19:00
  会場 連合獣医学大講義室(農学部中庭の別棟4階)
これまで同様に、市民・学生・教職員だれでも自由に学び、討論に参加できます。


前号「つうしん No.179」の記事の、山口大学の「防衛省等との研究協力に関するガイドライン」の資料

 山口大学における防衛省等から資金提供を受ける研究協力に関するガイドライン
 防衛省等との研究協力申請に関する申出書  


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