日本科学者会議山口支部ニュース 第184号(通算)(2018年10月6日)
つ う し ん
WEB版 2018-10-7

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2018年度(53期) JSA山口支部大会の開催通知

大和田正明(JSA山口支部 事務局長)

 山口支部大会を添付の議案で下記のように開催します。出欠の連絡は別添の議決連絡票を郵送・FAXあるいは電子メールで増山支部代表幹事宛に10月31日(水)までに送ってください。
      日時 2018年11月3日(土) 11:00〜12:30
      会場 山口大学教育学部第11講義室


第29回中国地区シンポジウムのプログラム

 中国地区5県の支部で共同して隔年に開催されてきた地区シンポジウムを、今回は山口支部に実行委員会が下記のように開催します。シンポジウムは会員だけでなく市民・学生にも開かれていますので、お誘いあわせのうえ、ご参加ください。

1:日時 2018年11月3日(土) 12:45〜17:15 

2:会場 山口大学教育学部11番講義室 

3:主題 「東アジア情勢と憲法改正問題」

4:プログラム(講演時間には質疑の時間を含みます)
 12:45 開会のあいさつ
 12:50 特別報告(1) 岩国基地機能の拡大と問題に関して 吉岡光則(山口県平和委員会)
 13:20 特別報告(2) イージス・アショア候補地のむつみ自衛隊演習場と周辺住民 
          田村健二(萩市むつみ在住、農業)
 13:35 質疑・コメント
 14:00 学術講演(1) 「東アジア平和共同体構築の展望と課題:中国・北朝鮮の脅威論を超えて」
          纐纈 厚(山口大学名誉教授、明治大学特任教授)
	===== 休憩 =====
 15:15 学術講演(2) 「憲法への緊急事態条項を加える問題」松原幸恵(山口大学准教授)
 16:00 学術講演(3) 「アベ政治」とは何か――権威的集権システムと「グローバル軍事大国化」
          中島茂樹(立命館大学名誉教授、岡山支部)
 16:45 総合討論
 17:10 閉会のあいさつ

5:交通案内
  会場は山口市吉田の本部キャンパス内で、最寄りの湯田温泉駅(JR山口線)から徒歩20分程度です。
  自家用車の方は正門より入り、駐車場整理員の指示に従ってください。
  なお、土曜日なので、JR新山口駅からの直通バスはありません。湯田温泉、県庁方面行のバスで
  湯田温泉にて下車、徒歩30分あるいは平川方面行のバスに乗り換えてお越しください。


陸上イージスは何のため(増補版)

 イージス・アショアについての記事が、「日本の科学者」11月号の「談話室」に掲載予定です。字数制限で十分に述べることができなかった事や、7月末の脱稿後に報じられたことなどを付け加えた増補版です。


 一昨年から昨年秋にかけて、北朝鮮は40発近くの弾道ミサイルを発射、核爆発実験を強行、核弾頭を装備する準備ができたと宣伝した。グアム周辺に4発の弾道ミサイルを撃ち込むので、島根県〜高知県は落下物に注意しろとも宣言し、日本国民を極度に神経質にさせ、何とかならぬかと多くの国民の思いは募った。これに対して政府は日本海に配置のイージス艦、および列島に展開のパトリオット部隊に、弾道ミサイル破壊措置命令を発令し、北からの弾道ミサイルを検知するとJ−アラートの警報が鳴る事態となった。
 弾道ミサイル迎撃態勢を強化するために防衛省が陸上設置型の迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を導入する方針と報じられたのは昨年夏である(朝日新聞2017/8/17)。その後,候補地として秋田市と萩市の自衛隊演習場が挙がった(中国新聞2017/11/16)。そして12月の閣議で2023年運用開始をめざして2基を設置することを政府は決定した。
 この流れの中では、従前のイージス艦に装備のSM3ブロックIの迎撃ミサイルでは対処できないような、北の新たな弾道ミサイル配備に対応するためにイージス・アショアの配備を決めたように見えるし、防衛省・自衛隊も北の脅威を理由に挙げている。しかし、それは国民受けする理屈づけに聞こえる。昨年の早い段階では弾道ミサイル防衛システム(BMD)の増強策として、THAAD導入が検討されていると報じられていた。ところが安倍・トランプ会談を経るなかで急速にイージス・アショアに変更となった(半田 滋、現代ビジネス2017.8.24; http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52659)。遡って調べてみると、SM3ミサイルをブロックUAに増強する計画は10年近く前から日米共同開発で進められている。開発が難航している中で、さらに予算をつぎ込むために日本で実戦配備すると名乗る必要があったのではないかと邪推もできる。昨年夏に発行の防衛白書ではイージス・アショアの言葉すらなく、イージス艦を8隻体制に増強することで北の弾道ミサイルに対応できる、その予算が必要との立場が述べられていた。
マピオン地図に演習場位置を塗色
 さてここで、イージス・アショア配備の候補地にあがった陸上自衛隊むつみ演習場を紹介しよう。山口市の北北東35q、東アジア最大の米軍航空基地となった岩国市から北西60q、日本海まで10数qの標高500 mにある200 haほどの丘である。この一帯には数十万年前の火山活動で溶岩台地が幾つも形成された。幕藩時代に開墾されていたはずであるが、稲作に向いておらず、戦後の開拓期に大陸から引き揚げた農民の手で再度開墾された。ところが朝鮮戦争の勃発で、米軍は山口県中部の秋吉台を射爆場候補としたが、地元の強力な反対運動で頓挫。代替地が探された結果、むつみ地区が選ばれ、開拓農民は満州→むつみ→信州や東北という移転を余儀なくされた。むつみ演習場は陸上自衛隊が全国に持つ100近くの演習場の一つであるが、射爆に使われることはなく、地元民から見れば草原の丘陵であり、陸上自衛隊山口駐屯地の第17普通科連隊がときおり訓練で使う平穏な場所である。なお、田万川、大井川、蔵目喜川の源流であり、環境汚染があれは阿武・萩地域の広範囲に及ぶ。
 農村経済が逆風にさらされ、過疎化の進むなかでも、この周辺は農業法人が頑張って成果をあげている地域である。都会からのUターンも明るい話題となっている。そんな平和な土地がなぜに基地にされるのか?いったん戦火を交えれば真っ先に攻撃対象となるレーダーとミサイル基地に。近隣自治会と演習場の北に隣接する阿武町長は反対の意見を表明した。
 JSA山口支部が参画するミニ講座では、数ヶ月前から企画していたイージス・アショアの学習会を5月19日に開催した。この問題への関心の高さを反映して、市民を含めて30余名の参加があった。なお、学習会に先立ち、現地ツアーも行っている。以下、学習会での問題提起と討論の概略を記す。

 弾道ミサイルは1段目のブースターで打ち上げられ、2,3段目で加速されて大気圏外に出ると、弾頭は力学の法則で決まる楕円(近似的には放物線)軌道をとって目標地に(朝鮮半島から東アジア最大級の米軍航空機基地岩国までは800km、関東圏までは1300 kmであるので、最高高度200〜300q、水平方向速度は毎秒2〜3qで)近づき、大気圏に再突入すると空気加熱で数千度の高温となって音速の10倍以上で落下する。これを迎撃するのが2004年度からわが国がとっている弾道ミサイル防衛(BMD)である。標的地の近くに展開するパトリオットのPAC3(射程は20~30q程度)、あるいは日本海で警戒するイージス艦から発射するSM3ミサイルを導入し、イージス艦だけでも2020年度には8隻になる。迎撃ミサイルの性能を上げるミサイルSM3ブロックUA(以下、新SM3と略す) 開発が日米軍事共同で進められている。昨年夏に公刊の防衛白書ではこの新SM3は日本海のイージス艦に装備するとされている。そして新型イージス艦であれば、2隻で日本列島をカバーできるとして、予算要求の正当性を強調していた!
 ところが1年前に新SM3を陸上イージスに配備し2023年度から運用するという方針の大転換がはかられた。北朝鮮がたて続けに弾道ミサイルを発射して、自衛隊に破壊措置命令が出されていた時期で、イージス・アショアの運用は6年先という時差に疑念を抱かせない世論操作のもと、2千億円を越える予算(最近の報道では総額6千億円に達する)をつぎ込むという、誰かへの防衛省の忖度か。小野寺防衛大臣は新SM3を秋田と山口の2カ所の陸上イージス基地に設置し本土全域をカバーし、イージス艦は本来の「南西防衛を含め、様々な任務に」戻すというが(防衛大臣記者会見概要2017/12/19、 防衛省ホームページ)、ここに真の狙いがあるといえよう。

 さて、新SM3の迎撃試験は初回の成功後、2、3回目の実践的迎撃実験では失敗が続いており(NHKニュース2018/2/1)、完成度に疑問が残る。防衛省のBMD構想では宇宙空間(ミッドコース段階)にある弾道ミサイルを真下から撃ち落とす図が示されている。秒速2〜3qで移動している長さが1〜2mの物体を横から破壊するには千分の1秒の時間精度、10cmの空間精度で2者の軌道が会合しないといけない。小惑星探査機はやぶさの制御技術をもってすれば可能なように思われるかも知れないが、迎撃体は向きを修正できるものの、加速・減速はできないので撃墜は極めて難しい芸当であろう。なお、弾道ミサイルの正面から接近すれば可能性は高まる。実際、PAC3や米軍が韓国に配備のTHAADによる迎撃ではそのようにしている(朝日新聞2017/12/17、H29版防衛白書)。
 関東地方を狙ってくる弾道ミサイルを迎え撃つには、弾道ミサイル発射と間髪入れずに、弾道ミサイルと同程度の性能のロケットで迎撃体を発射しなければ、山口や秋田からでは間に合わないことがすぐに分かる。陸上イージス2基で本土全体を迎撃防御できると本気で考えているのだろうか?たとえ撃破しても破片は地上に降り注ぐ。都市化が進んだ人口密度の高いわが国では、弾道ミサイルを迎撃できても、撃ち漏らしがあっても、いずれも甚大な被害が予想される。国土を戦場にしてはならない。朝鮮半島で緊張緩和が進む可能性がある今、平和的解決への努力を強めることこそがわが国に求められている。
 むつみにミサイル基地が建設されると萩市、阿武町だけでなく山口市もその基地周辺地域になるであろう。先月の 南北朝鮮首脳会談で朝鮮戦争の終結・朝鮮半島非核化への決意が表明されている。それにもかかわらずに中〜長距離弾道ミサイルに対処できる新SM3を装備する陸上イージス基地建設が必要という。グアムへのミサイル経路下に位置するむつみへの基地建設は、自衛隊が専守防衛論を捨て、アメリカの東アジア〜太平洋戦略に組み入れられる予兆と考えるのは杞憂であろうか。

 以上が5月のミニ講座の問題提に若干のその後に分かったことを付け加えた内容である。
 ところで、今年4月の南北朝鮮首脳会談をへて、6月12日の米朝首脳会談で朝鮮半島の非核化を促進するとの共同声明が発表された。トランプ米大統領は核爆弾とその輸送兵器の廃棄の交渉中は米韓合同軍事訓練を中止すると発表。わが国では菅官房長官が「いつミサイルが向かってくるかわからない状況はあきらかになくなった」として、6月22日にJアラート避難訓練を中止すると発表した。北朝鮮をめぐる緊張関係が平和的に回避できる転機と考えられている(ドナルド・トランプとキム・ジョンウンはともに脅しと煽ての外交戦略をとっており、予断は許さないが)。
 こうした状況の変化にもかかわらず、防衛省・自衛隊はあくまでイージス・アショアは必要として、6月17〜19日に萩市と隣接の阿武町の3箇所での住民説明会と、市・町議会議員への説明会を行った。住民や議員からはなぜ今ミサイル基地をむつみに設置することが必要なのか、また住民の生活と生命への影響を危惧する発言が相次いだが、納得できる説明はなかったと報じられている。さらに8月下旬の防衛省・自衛隊の3回目の地元説明会では迎撃ミサイルSM3ブロックIIAの詳しい説明や強力なレーダー電磁波の影響調査をすると述べた。
 その後、電磁波の影響調査は防衛省の一般競争入札には応札がなく(9月12日)、条件を緩和して再度入札を公示した。わが国で導入するイージス・アショアにはこれまでのイージスシステムとは異なる新型の強力なレーダーが選定されている。その技術的仕様は事前調査に際して公表されるのであろうか。電磁波は地形により複雑に反射されるので、強力な電磁波源については実地に電波を発したうえの測定もせずに、安全性が担保できるのであろうか。
 つぎに、SM3のブースターが周辺に落下する危険性の質問が地元説明会であったのに対して、防衛省の担当者は演習場内に落下させるから心配ないと答えたという。確かにSM3は垂直に打ち上げられ、1段目のブースター(米国製)で加速し、固体燃料が燃え尽きると2段目(日本製)に点火され、標的に向かって姿勢が制御され、さらに上空で3段目に点火、大気圏外に出ると弾頭部が放出される。その限りでは真上に上がったブースターが真下に落ちると期待されるのか?しかし、2段目切り離しの反動もあるだろう。どれほどの高度から落下するのか、1kmや2kmあるいはそれより高いか。空気抵抗がなければ高速で落下する。空気抵抗で落下の軌跡は複雑に変わるだろう。そもそも、本当に真下に落ちたら発射装置やイージスのレーダーを損傷させる。イージス艦から発射の場合は艦が移動して行くから大丈夫だし、東欧に配備のイージス・アショアは飛行場の跡地などの広い土地にあるので、敷地内に落とせるかもしれない。むつみ演習場はそれほど広くはない。兵器=弾の後始末まで考えてブースターが設計されているとは信じがたい。よしんばブースターの落下事故は防げても、2段目、3段目ロケットはどこに落ちる。商業用衛星打ち上げの際は落下海域を指定し、事故を防いである。北からの弾道ミサイルが関西・中部・関東を狙ってくるとき、2段目ロケットは北東に向かって飛んで、島根県や鳥取県に落ちるかもしれない。グアムを狙ってくるときは瀬戸内に落ちるかもしれない。そもそも、レーダー装置と発射装置は同じ敷地にある必要があるのか、大いに疑問である。
 イージス・アショアに対する懸念は軍事評論家からも出されている(田岡俊次;ダイアモンドオンライン、18/9/13;https://diamond.jp/articles/-/179620)。イージス・アショアの必要性や効果に対する疑問に答えず、北からの脅威論だけで、いったん戦火が開かれれば真っ先に攻撃を受ける新基地を最も影響を受ける地元民の意向を無視して建設してはならない。地元を原発事故なみの半径30qとすれば、山口市も入ることになる。他人事ではない。 (増山博行;18-9-20)


7月以降の山口支部が関係した活動

・7月22日 JSA中国地区会議 吉村、増山が出席
・9月23日 ミニ講座「YU学び舎」第12講 会場:山口大学会館 参加者8名
  元会員の加納隆氏が「資源を考える」のテーマで話題提供した。
・9月30日 ミサイル基地をつくらせない県民大集会が阿武町福賀 のうそんセンター
  (台風接近のため会場が西台から変更)で開かれ、県内から250名が参加した。
  支部からは増山会員が「イージス・アショアは何のため」と題して講演した。
・10月6日 支部幹事会と中国地区シンポジウム実行委員会


編集後記

 中国地区シンポジウムが多数参加で成功すれば、陸上イージスに対する意思表示でしょう。
JSA山口支部事務局
   〒753-8511 山口市吉田1677-1 山口大学教職員組合気付
  Tel 083-933-5034  Fax 083-921-0287  e-mail fuy-union@ma4.seikyou.ne.jp

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