日本科学者会議山口支部ニュース 第189号(通算)(2020年3月1日)
つ う し ん
WEB版 2020-3-7

 

小金澤 鋼一氏の講演会、成功裏に開催される

 12月15日、東海大学の小金澤教授による「『自律型ロボット兵器』の開発と禁止運動の現状」の講演会が山口大学人文学部大講義室にて開催された。JSA企画としては久々に学生の参加もあり、50名を越える参加者が熱心に聴講、討論を行った。
 講演会冒頭、主催者を代表して、増山支部代表幹事があいさつし、山口大学では防衛装備庁の安全保障技術研究推進経費が19年度に採択され、大学教員の有志の意見をJSAで取りまとめて大学当局に申し入れたが、無視された状態が続いているなかで今回の講演会が開催されたことを述べた。小金澤氏の講演概要は次の通りであった。
 政府は19年度からの中期防において無人機部隊の新編成、電子戦機の導入、AIを搭載した自律型ロボット兵器の開発を進めるとしている。ロボットは自律性を有し、ヒトの判断を介さずに行動する。既にいくつかの国がドローン攻撃機や無人装甲車を実戦配備している。
 ロボット兵器には自律性の程度で半自律・監視付自律・完全自律がある。交戦の決定を人間が行う半自律ロボットでも、過去において無差別に非戦闘員を殺した多くの事例報告がある。将来、AIによる完全自律ロボットが行動すると、AIが判断した理由も分からないまま、ロボットが暴走することが危惧される。これに対して、著名な知識人およびAIやロボットの研究者が完全自律型ロボット兵器の開発に反対の声を上げており、また国連においても禁止条約制定の動きがある。
 質疑のなかで、イージス艦のシステムは通常は半自律で人間が交戦決定をしているが、飽和攻撃に対して人間の手を離れて交戦する可能性があることや、東海大学での軍事研究反対の取組についての紹介があった。

「イージス・アショア配備を考える山口の科学者」の取組の紹介

 2019年3月3日、日本平和委員会事務局長千坂純氏によるイージス・アショア講演会「何のためのイージス・アショア」は大盛況に開催された。JSA山口支部もこの講演会の実行委員会に加わり、講演会の成功に貢献した。実行委員会は解散するにあたり、剰余金を安保法制の廃止をめざす山口大学関係者の会の事務局に移し、イージス・アショアに反対する運動経費として活用することを申し合わせた。
 その後、ミニ講座「YU学び舎」の世話人会を中心に、イージス・アショア配備計画の分析を進めていた。当初、市民・学生に分かりやすい反対運動の宣伝リーフレットの作成を念頭に編集会議で作業を進めていたが、防衛省の現地向け説明資料  
  • イージス・アショアの配備について −各種調査の結果と防衛省の検討結果について− 2019年5月  
  • イージス・アショアの配備について −再調査の結果を踏まえた再説明− 2019年12月  
  • 同上 別冊 2019年12月
    の問題点を掘り下げることで、宣伝リーフレットでは収まらない内容となってきた。
     そうしている間、2020年1月下旬に萩市が防衛省の説明資料の内、電波の影響と水資源の問題を検証する独自の有識者会議を発足させることが報じられた。そこで、むつみへのイージス・アショア配備計画の諸問題を論ずる小冊子「山口県にミサイル基地を建設? イージス・アショアを考える」(A4, 24頁)をコピー、ホチキス止めで仕上げた。その際、この小冊子が安保法制の廃止をめざす山口大学関係者の会、ミニ講座「YU学び舎」、日本科学者会議山口支部の3者で作り上げられてきた経緯から、3者の代表者である外山氏、君波氏、増山氏の3名を共同代表とする「イージス・アショア配備を考える山口の科学者」の名前で公開することとした。
     2月13日、編集会議は小冊子に加えて、萩市の有識者会議で検討の電波と水の問題に特化した記者発表用の資料(A4,8頁)を校了した。そして同日の夕方、増山氏が萩市役所を訪れ、冊子と記者発表資料を添えて、市長宛の要請文書を総務課の課長に手渡した。
     翌日14日には上記の3共同代表が県庁の県政記者クラブを訪れ、内容について1時間半近く説明し、夕方のTVニュースや15日の新聞で報道された。
     記者会見後、一行は県庁の防災危機管理課に行き、県知事に資料及び要請文を手渡した。なお、阿武町長には郵送とした。
     記者発表の資料はJSA山口支部のホームページに掲載されている。
       URL http://www.e-hagi.jp/~mashi803/jsa/index-3.html

  • 【記者発表の概要】
    <主たる論点>
     「むつみ演習場にイージス・アショアの設置を行うという昨年5月、および12月の防衛省の説明書に対して、私どもは深い関心を抱き、批判的検討を行ってまいりました。その結果、文書としてまとまってきたので、その内容をマスコミ各社に発表します。
     この文書を萩市に送付して、萩市設置の有識者会議において、防衛省資料と併せて検討することを萩市長に申し入れます。提起されている疑問・質問に対して萩市有識者会議が明快な解明を行わない限り、住民の不安を解消することは出来ないと考えます。」
    <外山氏の発言>
     イージス・アショアの配備は、山口に生きる私たち県民および未来の県民のくらしと安全にかかわる大切な問題だ。
     しかし、防衛省は住民の理解を得ながら進めるといいながら、説明会等で住民の不安や懸念に応えることなく、配備に向けた準備を着々と進めている。
     現地調査も、住民の不安を解消する調査というよりは、配備に向けた調査と言わざるを得ない調査で、その不十分さを指摘せざるを得ない。
     昨年5月の調査報告書で、ずさんな調査が問題になり、再度調査がなされ12月に再調査報告書が出されたが、さまざま問題がある。
     最近、沖縄の辺野古新基地建設で、建設予定地の軟弱地盤の地盤強度の「不都合な」データを防衛省が隠蔽していたという記事が報道されたが、専門家会議とか技術検討会などでは、調査の元データ、すべてのデータが提供されてこそ、その役割を果たすことができる。イージス・アショア配備でも、正しい検討が行われることを切に望む。
     今進んでいるような、政府が閣議決定した方針を地元の声に耳を傾けることなく、また、科学的に見ても問題のある計画を強引に進めることは到底認めることはできない。
     山口県萩市むつみへのイージス・アショアの配備でも、辺野古と同じことが行われることは看過できない。
    <君波氏>
    1)地下水流路図の差し替えを防衛省が行っていること
    2)根拠のない地下構造図を示していること
    従って、防衛省の主張は納得できない。
    <増山氏>
    1)サイドローブの影響はないというが、電波強度は時間平均ではなく、電子機器には瞬時値を考えるべきで、影響がないとは言えない
    2)メインビームは地上には影響がないというが、ビームの幅や遮蔽物による回折(2次的サイドローブの発生)を防衛省は言及しておらず、さらに瞬時値を考えると西台東台の半径2km以内の空中は大きな影響がありうる。
    3)仰角は5〜10°というが、2)を考えると台上の農場や牧場への影響は深刻、また、安全を配慮すると仰角は9°以上となり、レーダーで探知できる範囲が狭くて、弾道ミサイル防衛に役立つのか分からない。
    <質疑の中から>
     防衛省が迎撃ミサイルの1段目が落下する区域という図面は不自然であり、演習場内に落とせるという保証はされていない。

    第55期 第2回 JSA中国地区会議の報告

     12月21日(土)午後、岡山市で開催され、中国5県の支部代表と岡山支部の陪席者の9名が出席しました。
     まず、中国地区の全国幹事である藤田氏(鳥取支部)が12月7、8日に東京で開催された全国幹事会(速報は「日本の科学者 2020年1月号」に添付の事務局ニュースに掲載)の報告を行いました。・全国大会では3500名の会員数で予算を立てたが、これを切っており、会員拡大の強化と財政カンパのお願いをする。・家賃が安価な事務所への移転を考えている。・熊本支部を再建するため、暫定支部事務局を置く。・運営に破綻した支部が生じたときには地区会議を代行支部として再建出来るように規則の一部改正を考えている。・加盟団体や賛助団体等を整理して分担金を削減する。・「日本の科学者」の53巻(2018年)のバックナンバーを希望する支部に無償で提供し、その活用を図る(販売した場合の収益当該支部へ)。・会員名簿を本部で作成するため、会員に協力を依頼する。
     また、2020年の取組としては、岡山にて女性研究者シンポを開催、第23回総合学術研究集会は12月に拓殖大学文京キャンパスで開催、JSA第51回定期大会は5月30、31日に東京で開催、と報告されました。
     中国地区推薦全国役員のローテーションは前回の地区会議で示されたとおりです。山口支部は2022年に地区幹事(2021年は広島から出る地区幹事の補佐)。
     その後、各支部の活動状況と課題についての報告がありました。
    ・岡山:毎月「よもやま話」の会を開催している。会員数は遂に百名を割った。
    ・広島:10月に支部大会と抱き合わせて講演会を開催し30名が集まった。弁護士会員の死去などで会員数減
    ・山口:イージス・アショア、上関原発、安全保障技術研究を巡る動きおよび、AI兵器の講演会の取組を報告した。
    ・島根:2月29日(13:30〜16:30)に松江で開催の第30回中国地区シンポジウムの準備を着々と進めている。
      会場:島根県民会館303会議室(JR松江駅より徒歩20分)
      テーマ:持続可能な農山村の地域づくり−中国地方の取組を事例に
      基調講演:「農業の多面的価値活用による農村振興−その現状と課題−」 谷口憲治(島根)
      事例報告:
      「地域資源を活かした付加価値の創出」 駄田井久(岡山)
      「山間地域における移住者の社会的役割」 福田 恵(広島)
      「中山間地域におけるまちづくり会社の意義と課題」 多田憲一郎(鳥取)
      「山口県の中山間地域づくりとその影響−合併自治体周南市の事例−」 山本善積(山口)
      「阿武郡阿武町の地方創生事業と相反するイージス・アショア」 鈴木 力、増山博行(山口)
      パネルディスカッション
    ・鳥取:弁護士などと共同での取り組みを進めている

    【読者からの投稿】下関市立大の問題に憂う

     2015年4月に施行の「学校教育法及び国立大学法人法の改正」に諸悪の根源がある。教授会の役割が教育研究に限定され、それ以外の大学にとって極めて重要な事柄が、上層部で決められ、その詳しい経緯等の説明もなく、単に報告事項として教授会で扱われるようになっている。憲法の保障する大学の自治を危うくし、大学の自主性、自律性を損なっていると言っても過言ではない。
     同時に、このような発言さえもできないような空気、雰囲気が、日本全国の大学全体を覆っているのではないのか。様々なレベルで大学の運営に関わっていても、掘り下げた議論をする余裕がなく議論できる相手も身近にいない。教授自身が孤立分断支配されていると言うことだ。

    10月以降、山口支部および会員が関係した活動

    ・10月20日 ミニ講座「YU学び舎」第17講「石炭火力発電所と環境アセスメント」 話題提供者は工学部関根雅彦教授、参加者20名(うち会員3名)  (日本の科学者2020、1月号のひろばで報告)
    ・12月13日 原発をつくらせない山口県民の会 (連絡ミスで欠席)
    ・12月15日 支部主催公開講演会(YU学び舎第18項)「自律型ロボット兵器の開発と禁止運動の現状」講師 小金澤東海大学教授、参加者55名(うち会員10名)
    ・12月21日 中国地区会議(増山代表幹事)
    ・2月9日 ミニ講座「YU学び舎」第19講「わが国における気象災害の特徴 − 2017年〜2019年の災害を中心に」 話題提供者は農学部山本晴彦教授、参加者約15名(うち会員4名)
    ・2月11日 第53回思想と信条の自由を守る山口県民集会、参加者150名(うち会員4, 5名)
    ・2月13日 イージス・アショア配備を考える山口の科学者が設置計画の諸問題をまとめ、萩市長に有識者会議で検討するように増山会員が申し入れる
    ・2月14日 イージス・アショア配備を考える山口の科学者がイージス・アショア設置計画の諸問題について県政記者クラブで君波、外山、増山3氏が共同で記者発表し、その後、県知事宛の文書を危機管理課に提出。阿武町長には郵送。
    ・2月22日 イージス・アショアに反対する萩市民の会の学習会で増山会員が「イージス・アショア配備を考える山口の科学者の取組の紹介」と題して講演、参加者35名
    ・2月27日 健文会「平和まちづくり学校」で「埴生宇宙レーダー基地は何が問題なのか?」を増山会員が講演、参加者25名
    ・2月29日 第30回中国地区シンポジウム(松江)は新型コロナウイルスの感染拡大を危惧して26日に中止。

     

    編集後記

     突如としてわき上がった新型コロナウイルス問題、2月末時点でわが国での感染拡大に歯止めはかかっていない。クルーズ船ダイヤモンドプリンセス号での隔離策に失敗したと国内外からの批判に曝された首相は26日に感染リスクが高い大規模な集会等の2週間延期をお願いすると表明。ところが翌日夕方には全国一律に小・中・高校の春休みまでの臨時休校を要請した。4月からの新学期にも影響が及ぶだろう。政府の無策は棚に上げ、オリンピックを成功させたという名声ほしさに国民生活に犠牲を強いているように見えてならない。
    JSA山口支部事務局
       〒753-8511 山口市吉田1677-1 山口大学教職員組合気付
      Tel 083-933-5034  Fax 083-921-0287  e-mail fuy-union(at)ma4.seikyou.ne.jp

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