日本科学者会議山口支部ニュース 第190号(通算)(2020年4月8日)
つ う し ん
WEB版 2020-4-9, 4-17

 

ミニ講座「YU学び舎」第20講 4月4日開催

「持続可能な農山村の地域づくり」

  講演タイトルと発表者
   「山口県の中山間地域づくりとその波及―合併自治体周南市の事例―」山本善積氏
   「地方創生事業と相反するイージス・アショア―阿武郡阿武町の事業を中心に―」鈴木力氏

 この2つの講演は、2月29日に松江市で開催予定だった第30回日本科学者会議中国地区シンポジウム「持続可能な農山村の地域づくり−中国地方の取り組みを事例に−」に山口支部から発表するレポートとして準備されていたものです。しかしながら、新型コロナウイルスのためシンポジウムは中止されたので、今回、YU学び舎実行委員会とJSA山口支部の共催で、山口市湯田温泉のサンフレッシュ山口で開くことが企画されました。直前まで会場が借りられるか危ぶまれていましたが、青く晴れわたった桜満開の下、18名の科学者・市民の参加で無事に開催されました。

 最初の講演者、山本氏は山口県地方自治体研究所で県内中山間地域等での地域づくりに関する調査をしてきたこと、県の定義する中山間地域は県土の7割の面積、人口の1/4(約20年前は1/3)に及ぶことを紹介。山口県では2006年に策定された「山口県中山間地域づくりビジョン」が出発点であり、平成の合併で誕生した広い市の周辺部活性化を課題とし、住民主体で将来計画を作成して実現する活動を行政が支援するかたちで推進された。しかし、その後、知事が変わる毎に県のビジョンが改定・変質されてきており、後で作られた山口県中山間地域振興条例への傾斜が強められ、国の「小さな拠点」形成事業の山口版(元気生活圏づくり)を推進するものになっている。
 2003年に2市2町の合併でできた周南市には11の中山間地域が存在する。最初は周辺の農山村地域で始まった「地域づくり」は2016年からは市内31地域全部が対象となり、現状では中山間地域で13団体、都市的地域では3団体で取り組まれている。この16団体の取組の中から、典型的な中山間地域の大道理地区と、JR徳山駅のすぐ北の都市的地域である今宿地区の事例を紹介した。
 大道理地区(200世帯弱、400人弱)では圃場整備工事の結果生じた広大な法面に農家が芝桜を植えたところ、年間5万人が来訪する景観地となった。農家だけでは来訪者の対応が困難になって、地区組織の「大道理をよくする会」で2011年に夢プラン(将来計画)を作成し、特産品の加工・販売、高齢者の互助活動、喫茶店や交流館の運営、移住・定住促進、などの活動を行っている。
 今宿地区(4500世帯、8500人、47自治会)には、多彩な人、意見、要求がある。市のまさに中心部に位置しているが、少子高齢化、つながりの希薄化、行事への参加者減に直面し、2016年に地域コミュニティ推進協議会から行政に相談した。そして、2019年に「つながる今宿夢プラン」を策定し、キラキラさせ隊(子育て)・イキイキさせ隊(高齢者)・ワクワクさせ隊(住み続け)を柱に、カフェ、ボランティアリーダー養成、情報誌発行などをやり始めている。
 県下には古くから行政とは独立した地域づくりの取組があるが、2006年以降は住民作成のプランを行政が公認するシステムが出来た。2018年以降は、国の事業の取り込みに変質している。周南市では「夢プラン策定・支援事業」が2010年にスタートし、当初は中山間地域づくりの推進であったが、都市部でも始まり、今後も広がりを見せるであろう。

 2番目の講演者、鈴木氏は社会政策が専門であり、山口に赴任して1年と言うことで、主に一般公開資料をもとにして阿武郡阿武町の町としての地方創生事業について概要を報告した。
 山口県全体として高齢化と人口減少率は全国で上位の中、阿武町も高い割合である。しかし、人口の社会減少は町の努力の結果、±ゼロとなってきており、10年前に予想された人口を上回っている。
 町長が率先して、人口を如何に減らさないためにIターン、Uターンをすすめる地方創生事業に取り組んでいる。移住・定住対策としてのインフラ整備、文化事業、医療費・保育費の無償化、道の駅の運営、住民参加型のコミュニティ政策をとっている。役場の若手職員の企画で住まい、仕事、つながりの3つの分野と8つのプロジェクトを走らせている。例えば、空き家を再利用した駄菓子屋の営業、空き屋見学会、季間労働者の募集と就業支援などがある。地域おこし協力隊員は役場が1年間雇用の間に1次産業で研修を積んでその後の定着を企画している。その他にも地元事業者と高校生のコラボ商品の開発、等々がある。
 こうした取組にブレーキをかけるのがイージス・アショア配備計画となっている。有権者の6割が「反対する町民の会」の会員となり、町長は明確な反対を表明している。IターンやUターンした人たちは、イージス・アショアが出来るかも知れないと知っていたら阿武町に来なかったという。ターンしてくる「人々が将来に渡って望めなくなれば、町が成り立たなくなってしまいます。・・・・町民みんなでつくりあげてきたこの町を、イージス・アショアでつぶしてしまうわけにはいかないのです。」と町長は訴えている。

   2つの講演に対する質疑、コメントの発言は活発に行われた。
  • 水源地の中山間地域に産廃処理場建設が問題となっている宇部市民「市長交代で何か変わらなかった?」
  • 山本:中心部の再開発と都市機能の高度化が合併の旗印で、開発のお金は中心部に投資され、広域的な道路整備がされた。そのため、中山間地域はますますピンチとなっている。
  • 平成の合併をしなかった防府市民「合併の功罪は?」
  • 山本:住民サイドに意見を求めると、とくに周辺部では否定的な意見が多い。合併した町村の役場職員が激減してわずかな支所の職員になり、住民サービス低下や地元の声の汲み上げが劣化している。阿武町のような取組は合併していないから出来る。
  • 萩市の中山間地域の市民「コミュニティづくりのかけ声はある。住民を使って地域を支えるという発想。しかし高齢化の進行でボランティアが出来る人が減っている。イージス・アショアについては、どうせ出来るのだったら、貰えるものは貰おうという地元有力者の意見がある。」
  • 阿武町にIターンした町民「外から来たものと在住者のトラブルがあっても、役場は傍観している。道の駅の再開発が進んでいるが、これまでの評価が十分とは見えないし、周辺住民の声を聞いてくれない。」
  • 山口市の中山間地域の農民「住民の暮らしの基盤は何なのかが基本的視点のはず。第1次産業を活性化し、食糧自給率を高める事業をやらないとダメだ。無農薬で安心安全な農産物をつくる百姓を育てること。」
  • 萩市民「自衛隊で栄えるようになった町は全国どこにもない。」
  • 司会者:国や県の関わりは?
  • 山本:国は「小さな拠点」形成を進めている。いくつかの集落がある場合、その中心集落に施設を集め、周辺とは交通を整備するという考えである。県はそれを「元気生活圏づくり」として推進しているが、小さな地域にまで中心と周辺をつくり、地域格差を拡大する恐れがある。もう一つ、連携中枢都市圏構想を国は打ち出している。山口県では、下関市、山口市などの県央、岩国市などと広島を含む3つの都市圏で取り組みがされていて、それを行政単位にするかどうかが国で検討されている。
  • 司会者:地方が生き生きとしながら、知恵と力を出して、自助自立の精神で頑張っている状況を知ることができ、励まされた思いです。農業をやっている人と漁業をやっている人では繁忙期が違うので、色々な階層の人たちをうまく結びつけ、労働力の有効活用を図りながら、街づくりをやっている知恵などは見事ですね。行政のガバナンスは重要ですが、現実を知っている地元の努力を助けてこそ、意味があります。
     両先生、本日は有り難うございました。                  (文責 HM)

  • 幹事会声明

    学問の自由と大学自治への脅威
    − 下関市立大学の定款改悪を糾す −

    2020年3月31日
    日本科学者会議山口支部幹事会
     昨年6月以来、公立大学法人下関市立大学の大多数の教員が学問の自由・大学の自治が危機的な状態であると訴えている。下関市立大学の設立団体である下関市の市長が法人の理事長に対して専攻科と特別の課程の設置、そしてその担当教員3名の採用を働きかけたことを発端としている。理事長は直後に学内説明会を行い、学長は教育研究審議会に諮ろうとしたが、これに反対の教授らが納得せず、会議は流会した。ところが翌日の6月26日に理事長は経営審議会に諮り、新組織設置の承認を取り付けたとして、27日に市長から推薦のあった3名の教員に採用内定通知を出している。その後、7月25日に教育研究審議会が開かれ、経済学部教授会(単科大学であるので、唯一の教授会)からの異議が申し立てられたが、継続審議とされたまま、異論を封じる形で経過することになった。
     公立大学法人については2003年に制定の地方独立行政法人法の第7章において規定されており、第69条では大学における教育研究の特性に常に配慮することを設立団体に求めている。理事長は設立団体の長が任命するが、理事長と別に学長を置く場合は国立大学法人のように、経営審議機関と教育研究審議機関から選出された委員で構成する選考機関の議に基づき、理事長が学長を任命する(第71条)となっており、設立団体の長(市長)や理事長の直接的介入を避けている。第73条では副学長、学部長等および大学教員の任命・免職・降任は学長の申出に基づき理事長が行うものとなっている。そして第77条では「定款」の定めるところにより審議機関を置くとしており、学長、学部長その他の者から構成される教育研究審議機関は教育研究に関する重要事項を審議することが定められている。
     こうした法律の規定を踏まえ、下関市立大学の定款(2006年制定、2018年改正)では第23条で教育研究審議会の審議事項を9項目(国立大学法人法の教育研究評議会の審議事項と逐一対応している)にわたって列挙している。それらは次の事項を含む。
      (3) 重要な規定の制定及び改廃に関する事項のうち、教育研究に関する事項
      (4) 教員の人事に関する事項
      (5) 教育課程の編成に係る方針に関する事項
    これらの審議事項および経営審議会の審議事項は、山口県立大学や山陽小野田市立山口東京理科大学の定款と横並びである。なお、定款第18条第2項では、経営審議会が大学、学部、学科その他の重要な組織の設置又は廃止に関する事項を審議するときは、あらかじめ、教育研究審議会の意見を聴き、当該意見に配慮するものとする、と明記している。
     理事会の規定がない下関市立大学における定款の第9条には、理事長は経営審議会および教育研究審議会の議を経ることが明記されている。従って、学長が教育研究審議会の議を経ずに教員の任用を理事長に申し出ることはあってはならない。また、教育研究組織である専攻科や特別の課程には規則の制定が伴うにもかかわらず教育研究審議会にかけない、などのことは定款及び学内規則に則していない。このように下関市立大学の理事長および学長が教育研究審議会で審議を経ずに新教育組織・課程の設置計画を推進したことは学内規則に反していると言えるだろう。とりわけ教員の採用人事を学内規則によらず理事長の介入で行ったことは、例えば市職員採用に市長が口を出せないことと同様にあってはならないことであった。
     実際、2019年8月に大学当局は専攻科と特別の課程の設置に関して文部科学省に事前伺いをかけたようだが、文部科学省からは「学内規定に沿った適切な手続きの必要性」が指摘されたと伝えられている。
     ところが、大学当局はそうした誤りを正すどころか、誤ったやり方を正当化する規則改正に打って出た。すなわち下関市は定款の改正案を9月2日の定例市議会に上程し、26日に可決されると、県知事に定款変更を申し出て、施行を2020年4月1日として、11月22日付で認可された。
     この新定款は次のように驚くべき内容となっている。
     1)教育研究審議会の審議事項から
       (3)重要な規程の制定及び改廃に関する事項のうち、教育研究に関する事項
       (4)教員の人事に関する事項
      の2項目を削除
     2)経営審議会の審議事項からも
       (3) 重要な規程の制定及び改廃に関する事項のうち、法人の経営に関する事項
      を削除
     3)代わりに、役員会を新設し、その下に諮問機関として
       (1)法規委員会
       (2)教員人事評価委員会
       (3)教員懲戒委員会
      等を置き、理事会の「専属的議決事項」とする
     これらの定款の変更に伴い、当然ながら大学の重要な規定の制定及び改廃が必要となる。したがって、下関市が定款の改訂を行うにあたって、学校教育法並びに地方独立行政法人法の趣旨を踏まえるならば、経営審議会および教育研究審議会の意見を聴き、かつ当該意見に配慮すべきであった。「法に違反するなら法を変え」、事後に決まった法を遡って適用するというようなことは、民主的な法治国家では決して許されないことである。
     およそ大学における教員・学生の学問の自由は、人類の歩みの中で広く認められるようになった権利である。大学が社会と断絶して勝手な行為をする、あるいは為政者が私物化するためではなく、まさに学問の自由を担保するために大学の自治が不可欠であると考えられている。従来、大学の自治の根幹は教授会自治と考えられ、わが国の学校教育法で教授会の役割が規定されていた。しかし、2014年の学校教育法の「改正」で教授会の役割は決定機関ではなく審議機関とされ、「学長が教育研究に関する重要な事項について決定を行うに当たり意見を述べること」および「教育研究に関する事項について審議し、学長の求めに応じ、意見を述べることが出来る」と限定された。
     そうであっても、何を重要事項とするのか、何に関して学長は意見を求めるのかは、各大学の自治の範囲に委ねられている。ただし、国立大学法人法および地方独立行政法人法の公立大学法人に関する条文で、国公立大学の管理運営の骨格は規定され、また理念がこめられている。
     新設の下関市立大学理事会ならびに下関市議会はこのことを謙虚に鑑み、学問の自由を保障する大学の自治を発揮できるような運営につとめ、かつ理不尽な定款や学内規則の再改訂を行うべきと考える。我々は困難な中で学問の自由と真の意味の大学の自治のために奮闘している下関市立大学の教職員に敬意をこめて、ここに意見を表明する。


    3月以降、山口支部および会員が関係した活動

  • 3月24日 イージス・アショア配備を考える山口の科学者が萩市長宛に、配備計画適地調査等健勝有識者会議のY委員の「第三者性」の再検討を要請
  • 3月31日 支部幹事会声明「学問の自由と大学自治への脅威 −下関市立大学の定款改悪を糾す−」
  • 4月4日 ミニ講座「YU学び舎」第20講、「持続可能な農山村の地域づくり」話題提供:山本会員、鈴木会員、参加者18名(支部会員4名)
  • 新入会員の紹介

    村上ひとみ氏(山口大学工学部感性デザイン工学科、都市防災)が4月から入会。研究テーマは「防災まちづくりと災害時の避難行動及び持続可能な交通に関する研究」です。

    JSA資料の寄贈の勧め

    山口支部が1974~2002年の間に編集・発行した「公害研究」全7号とその後継の「地域研究山口」1,2,4~6,8~21号は山口大学総合図書館にまとめて収蔵されています。個人で管理するより、寄贈することで貴重な資料の保存・利用が可能となります。事務局が窓口になるので、資料をお持ちの方はご連絡下さい。

     

    編集後記
     2月28日に首相が突如として表明した全国一律に小・中・高校の春休みまでの臨時休校の要請は、春休み開始まではほとんど空振りに近かった。そのために油断があったのか、3月下旬から大都市圏および帰国者による感染が拡大の一途となっている。4月に計画されていた「イージス・アショアを考える」をテーマとしたミニ講座「YU学び舎」は、5月中旬に延期された。しかし、県内でもジワジワと感染が拡大しており、さらに開催延期の可能性がある。いったん再開された学校もいつまで開けるのか、予断を許さない状況。このニュースを編集している間にも「緊急事態宣言」が発せられ、7都府県では他人との接触の大幅減が求められている。国民生活やJSA活動にも大きな影響が出るかもしれない。会員各氏及び周辺の方々の健勝を祈らずにはおれない。
    JSA山口支部事務局
       〒753-8511 山口市吉田1677-1 山口大学教職員組合気付
      Tel 083-933-5034  Fax 083-921-0287  e-mail fuy-union(at)ma4.seikyou.ne.jp

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