日本科学者会議山口支部ニュース 第193号(通算)(2021年2月15日)
つ う し ん
WEB版 2021-2-18

 

 下関市立大学の異常な事態について、日本科学者会議山口支部の幹事会は2020年3月31日に「学問の自由と大学自治への脅威 - 下関市立大学の定款改悪を糾す -」とする幹事会声明を発し、「つうしん」No.190で報じています。 このたび、下関市在住の支部会員から最近の動向を含めて下関市立大学で起きていることの詳細が投稿されました。

いま、下関市立大学で起きていること

濱田 盛承

1. はじめに
 下関市立大学(市立大)は経済学科、国際商学科および公共マネジメント学科からなる経済学部の大学であり、現在2,000余名の学生を擁する4年制の大学である。 1962年に開学し、60年近い歴史がある。卒業生は下関・近隣地域をはじめ、全国的に活躍している。
 このように経済学を中心とした市立大に、経済学とは関係のない教育学の分野の専攻科1)が2019年に教授会の意向を経ずに突然、設置されることになった。 また、専攻科の担当教員数名は市立大の定款や学内諸規程の定める教員選考手続きを経ずに採用された。 この組織は2021年4月に開設の予定とされる。このような事は、通常の大学ではありえないことであり、早急な解決が求められている。 このような事態を憂慮する9割以上の教員が反対の署名を大学法人理事長に出したり、文科省に市立大への指導を求めたり、また下関市議会ならびに山口県議会で正常化を求める質問が再三行われている。 また、下関市内では正常化を求め教員を支援する団体が2020年2月に結成された。このように市立大の正常化に向けた動きは始まってはいるが、市民への理解が進んでいるようには思われない。 正常な環境を取り戻した市立大で教育と研究が行われることを願って、下関以外でも理解されるように一文を取りまとめた。目まぐるしい展開であるので、理解していただきやすいように日付順に「出来事」を記載した。
注1 学校教育法第91条:大学における専攻科は、“大学を卒業した者又は文部科学大臣の定めるところにより、これと同等以上の学力があると認められた者に対して、精深な程度において、特別の事項を教授し、その研究を指導することを目的とする。

2. 市長から市立大関係者に「新」教員採用の打診
   2019年5月30日、前田晋太郎市長は下関市役所市長応接室に市立大経営理事、管理職教員を招集し、「新」教員登用の意向を表明した。 曰く、“「IN-Child2)」というテーマが出てきまして大学にA先生という方が第一人者で、そういう人との出会いがあり、A先生にぜひ会って欲しい。すごく人間味があり情熱的で、IN-Childに限らず、下関のために何か役に立ってくれる方になりそう”。 ここに「下関市立大学問題」の本質が端的に現れている。現職の下関市長という政治家が公立大学に対して、特定の研究者の登用を持ちかけたのである。
注2 IN-Child:前田下関市長が推薦したA教授が考案した教育方法。障害のある人もない人も包括的に学ぶインクルーシブ教育の一環とされる。

3.「学内説明会」での理事長の説明(6月6日)
 ・インクルーシブ教育(IN-Child) 特別支援教育専攻科新設の説明
 ・A教授および門下生2名が採用予定であると明言
 ・理事長発言内容「学内手続きによらず、市長の要望に応えた人事との批判に対し」 “特にこの先生が他の先生方にない特別な、オンリー・ワンの支援教育の手法を進めておられる。この先生をおいて他にない。余人をもって代え難い”

4. 教育研究審議会(6月21、25、26日)と経営審議会(26日)
 1)教研審 14名中10名の教員が欠席(「法令定款規程違反の会議には出席不可との判断(表1)」による
 2)経営審議会で「専攻科設置と研究チームの招聘(A教授等3名の採用人事)を議決。
 学長 「教研審には意見聴取の機会を与えたが権利放棄と見做す」と発言
 3)専攻科人事を「内定」(6月28日)
 4)51名の教員が「専攻科設置に反対する署名」を理事長に提出(7月10日)
表1 「これまでの教員採用人事」と「今回の専攻科採用人事」の比較
学校教育法に基づく、「これまでの教員採用人事」「今回の専攻科採用人事」
(1)教員人事評価委員会で採用方針決定(1)市長による採用「意向」の表明
(2)教授会傘下の学科会議で「公募要領(案)」作成(2)なし
(3)教授会で「公募要領」決定(3)なし
(4)教育研究審議会で「公募要領」決定(4)なし
(5)公募(5)なし
(6)学科会議で資格審査委員選出、教授会で承認(6)なし
(7資格審査(業績書類審査、業績縦覧、公開面接、
最終業績縦覧、資格審査報告書作成)
(7)なし
(8)教授会で審査報告書の審議、投票(8)なし
(9)教育研究審議会で審議、承認(9)学長が審議召集、委員は応じず流会
(10)学長申出により理事長が採用内定を決定(10)学長申出により理事長採用内定を決定

5.文科省への働きかけ(6/27上京し説明-大平喜信前衆院議員同席)
1)市立大教員側の対応
 ・「行政手続法に基づく処分等の求め」を提出。
 ・専攻科人事は教授会意見聴取(業績審査)をしない学校教育法93条2項3に違反
 ・定款、規程違反でもあり学校教育法15条に基づき是正命令必要
2)文科省側の対応 法令違反は調べる。

6. 8/7付文科省「助言」文書の受取り(8/21 市立大教員側に報告)
 ・「教授会に対する意見聴取を経ずに採用内定とすることについては,貴学の学内規程に則らない手続となっているおそれがある」
 ・「採用手続の適切性に疑義が生じていることは好ましいことでない」
 ・「学内規程に沿った適切な手続を採ることが必要になる」
 このように文科省(高等教育局大学振興課)からは「教授会意見聴取(業績審査)」を促す助言内容となっているが、大学法人としては「助言は存在しない」、「違法なら止められているはず」と主張し、「助言」を無視する態度を取っている。

7. 9月市議会、県議会で明らかとなったこと
 4下関市議と1山口県議の追及により、次のことが明らかになった。
 ・専攻科採用人事は「市長が意向を示し、教授会審査せず、学長と市大理事長で決定した」。一連の経過は事実であると総務部長が発言
 ・県当局は「文科省、下関市の動向(法令違反)を『注視する』からどこまでも『見守る』へ態度変更。

8. 定款変更「案」について
 教員ならびに法律関係者から「ルール違反」との指摘に対して、市当局はこれまでの規定を変えるということで“正当化”をはかろうとしてきた。
 1) 9月2日市長・市総務部が市議会に市立大定款の変更を提案
 2) その内容は、教研審審議事項の核心である重要規程の改廃、教員人事権・懲戒権を全て奪って理事会(ないし学長指名の諮問会議)に移行するという内容(表2)になっている。
 3)手続きは、9月の市議会提案まで一度も学内で審議していない。学部長だけでなく、学長にも知らされていなかった。
表2 これまでの定款と新定款における重要な審議事項の審議機関
審議事項審議機関
以前の定款新定款
重要な規程の制定、改廃に関する
事項のうち教育研究に関する事項
教育研究審議会理事会
教員の人事に関する事項教育研究審議会理事会
教員の懲戒に関する事項教育研究審議会理事会

9.「新定款」(2020年度)の下における大学の自治の崩壊
1) A教授は赴任前に学外理事に就任し、赴任半年で「副学長」、「経営理事」、「大学院担当副学長」、「相談支援センター(ハラスメント相談含む)統括責任者」、「国際交流センター統括責任者」、「教員人事評価委員会委員長」、「教員懲戒委員会委員長」を兼任することとなった。
2) 教員人事権の変質  第11条(雑則)に「学長は、教員採用に関し、全学的な観点及び総合的な判断により必要があると認めた場合は、この規程によらない取り扱いをすることができる」と規定。このことにより、教員の採用については公募、面接試験、教授会や教育研究審議会の業績審査なしで直ちに採用が可能となった。
3)「新定款」に基づく教員人事の実態
 2020年、A教授と同じ研究グループの研究者複数名が前述の「教員採用選考規程」第11条=学長全権委任法により採用された。
4)予算編成の変質
 ・補正予算にA教授の市民講座「特別の課程」のためのサテライト・キャンパス賃貸に566万円を計上
 市立大は市内山の田地区にキャンパスがあるのに下関駅前の「海峡メッセ」会議室を賃貸することになった。
 ・市立大図書館の「外国語雑誌定期購読」約500万円(全体の95%)を一方的に廃止
 経済学専門の外国雑誌を廃止すれば、経済学の研究に必要な資料がないこととなり、高等教育機関の図書館ではなくなる。したがって、単なる「図書室」に成り下がる。
5)教員への圧力。教員懲戒手続規程の「変更」
 ・旧規程・・・学長は、教員について、…懲戒の事由が…存在すると思料する場合には、当該懲戒事由にかかる情報を収集する
 ・新規程・・・学長は、教員について、…懲戒の事由が…存在するおそれがあると思料する場合には、当該懲戒事由にかかる情報を収集する

10. 教員に対する異常攻撃
1)市総務部と与党議員からの異常な大学攻撃
 ・3月、5月に市長、総務部、市議会議長宛に根拠のない「怪文書」が届く。
 「研究費で酒を買っている」、「休日出勤手当を詐取」、「教員同士でハラスメントもみ消し」、「論文を盗用している」など。
 ・6月、「差出人不明の怪文書」を根拠に「総務部長名で調査」を強行
 ・9月市議会において、市総務部から「法令、定款、規程違反はないが市民感情に反する」と答弁
 これに呼応して自民・公明党、ほか保守会派議員7名が市立大教員を攻撃する質問を行った。
2) 2020年9月市議会で市議会野党による追及
 ・市立大教員組合は、「怪文書」が事実無根であると市議会議長に申し入れ。加えて、記者会見を開催し、「教員は法令、規程違反皆無である」と説明
 ・教員擁護派4市議が「怪文書」の不当性とA教授に関わる問題を議会で追及
 ・9月県議会において、K県議がA教授に関わる問題と県の責任を追及
 このように、市民と野党の共闘で、自民・公明による大学攻撃に敢然と対抗した。

11.おわりに
 これまで市長の「新」教員の登用推薦と専攻科設置に伴って生じてきた“出来事”を記してきたが、目下の混迷の根源は大学が何を行う所かをわきまえない市長による介入と、大学経営陣の「大学運営の自覚の欠如」にある。 ここには大学とは教育・研究の場であるという認識が欠け、教育と研究を担う教員への温かいまなざしなど微塵も感じられない。
 教員側は「新」教員の採用には、“(憲法や学校教育法に則っている)これまでの規程に基づいて人事採用を行って欲しい“と言っているだけである。 専攻科を設置するのであれば、市長は大学に教育の立場から論議して欲しいと言えば良いだけの話である。何故なら教育の現場は大学にあり、それを担うのは教員であるからである。
 大学の自治に反した(改変)規程を今後とも適用していくならば、教育現場は混乱し、落ち着いた教育・研究は出来なくなり、教員は去る。 やがて魅力のない大学に学生は入学しなくなり、大学は早晩瓦解する。この混乱を収めるのは混迷を収集する市長の市政能力にかかっていると言っても過言ではない。
 多くの識者が、「学問の自由は憲法規定で、市長であれ総理であれ外部から介入してこれを破ってはならない」(寺脇 研 京都造形芸術大学教授)、 「採用予定者が就任以前に理事となっている事など全国どこでも絶対ありえない」(伊東 乾 東京大学大学院準教授)、 「市主導で学内審査を経ることなく教員採用できるよう“合法化”したことは、政治権力による“大学破壊”だ」(郷原信郎弁護士)と指摘しているように、下関市は混乱を早急に鎮静化しなければならない。 いまや、多くの良識ある市民・国民やマスコミの眼が下関市立大学の成り行きを注視している。(12月23日、下関市在住会員)

 

郷原信郎弁護士のYoutubeチャンネル番組 「日本の権力を斬る!」#54 でネット配信
 「2021年の焦点、『安倍前首相“ウソの構図”が問われる衆議院山口4区』とその前哨戦『下関市長選挙』」 と題した1月4日のYoutubeチャンネル番組の中で、安倍氏の秘書を10数年やってきた前田市長が安倍氏の“ウソの構図”を下関で実施していると指摘しています。そして、下関市立大学問題について次のように解説しています。
・前田市長が息のかかった外部の教授をむりやり下関市立大学にねじ込み、大学の教員人事を私物化した
・教員人事ルール、公立大学の定款に定めるルールに違反。それを指摘されたら定款を変えてしまった
・経済学部の単科大学に大変なお金をかけて教育の特別専攻科をつくろうとしている
・採用した教授を理事に取り立て、今や副学長にするなど、特別な処遇をしている
・反対意見の教授に徹底的に批判し、排除している
・選挙で勝てば、公的なものは何でも勝手にできるという考え方の表れで、安倍氏がウソにウソを塗り重ねた構図と同じであり、山口4区の衆議院選挙の前哨戦としての3月の下関市長選挙でそのやり方が問われている

 


有識者のコメント

 専攻科とは学校教育法91条の(2)で「大学を卒業した者又は文部科学大臣の定めるところにより、これと同等以上の学力があると認められた者に対して、精深な程度において、特別の事項を教授し、 その研究を指導することを目的とし、その修業年限は、一年以上とする。」と規定されています。 関連する学部教育をこえる事項を教授し、その研究を指導するので、学部の設置基準以上の陣容が求められます。 その大学が有する学部に関連した専攻科が設置されるのが通例です。
 2006年(平成18年)の法改正により、従前の盲・聾・養の学校が統合され、特別支援学校となり、従前の盲・聾・養の免許状がそれぞれの領域でのみ使え、すべての領域を含む特別支援学校では、特別支援学校教諭免許が必要となりました。 しかし、特別支援学校の免許保有率の低い状況が続いているようです。特別措置で、基本的な教諭免許の保有で特別支援教育ができるようになっていますが、その免許状の保有率を高めるために、文科省は、全国に特別支援教育の特別専攻科を認めてきているようです。
 最近では、教育系学部・研究科で特別支援教育の充実が進んでいるが、特別専攻科を設置して特別支援教育をしている大学は数多くはありません。 文科省資料(2020年9月)によれば、74の国公私立大学の研究科・特別専攻科で特別支援学校教諭専修免許(大学院修士課程修了)が課程認定されています。 一種免許(大学卒)は195の課程で認定されていますが、教育系学部・学科・コースを有する大学であり、下関市立大学のように社会科 (経済学)の課程認定の上に立って置くとするのは異例です。
 一般的に、既存の学科等における人事については、学内の関係教授陣による人事選考会議を経て、人事委員会、理事会等に諮っていくことをどの大学でもしていることと思います。 しかしながら、新しく専攻科等を設置する場合の選考については、若干難しい面が出てくる場合があります。 その専門的な内容に対応できる教授陣が学内にいないことがあるからです。 最初から公募ということも馴染まないかもしれません。そのような場合には学内の教授が構成する設置準備委員会などで、文科省に提出する申請書の作成や、候補者の履歴や研究業績等を候補者本人にも書いてもらい、最終的には文科省の厳正な審査を経て、設置認可が下りるという手順を踏んだ例があることを知っています。
 その際、文科省による担当候補者のチェックは相当厳しいものがあります。下関市立大学のホームページでは令和3年4月1日に受け入れる特別専攻科の学生を募集していますが、 1月の時点でも「文部科学省における審査の結果、予定している教職課程の開設時期が変更となる可能性があります。」と公示をしていることと関係があるかもしれません。
 いずれにせよ、下関市立大学の件は、極めて教学に関する事案にもかかわらず、教授陣への適切な情報の公開を怠り、教授陣による審議を全く行わず、 上層部だけで教学に関する重要な案件に対して一方的に決めたということに大きな問題があると言えます。
 さらに遺憾なことは特別専攻科の人事だけでなく、経済学部の教員人事までも定款の一方的な変更(事実関係をつくった上で、後からつくった規則で合理化するというとんでもないやり方)で 理事長と学長の思い通りになるように変えてしまったこと、まさに大学の私物化といえるでしょう。その結果、経済学部の教育研究に不具合が生じ、認証評価で指摘されれば、大学全体の経営責任が問われることになるのではないでしょうか。(Y、M談)


ミニ講座「YU学び舎」第23講が開かれる

 12月20日午後、山口市内湯田温泉にあるサンフレッシュ山口において「イージス・アショア配備断念と敵基地攻撃能力」をメインテーマとして開催された。参加者は27名、JSA山口支部からは増山会員と松原会員が話題提供者として参加した。
 はじめに「学び舎」主幹の君波さんが開会の挨拶を述べ、本日のテーマに関連したリーフレットが日本平和委員会山口支部から提供されていることが紹介された。また、日本学術会議会員候補者6名の任命拒否に対する署名に協力がお願いされた。
 最初の話題提供者はJSA会員の増山氏で、自衛隊の弾道ミサイル防衛計画の一連の経緯の中で2017年の日米会談で忽然とイージス・アショア導入が出てきて、まともな議論もなく閣議決定、現地説明会、立地調査と進んだこと、 地元からの質問に対してブースターを演習場内に落下させると岩屋防衛大臣が約束したが、河野大臣に交代してアメリカ側と打ち合わせた結果、10年の歳月と2千億円の追加経費を負担しないと演習場内に確実に落とせないことが分かって陸上設置を断念し、 安倍総理もこれを追認したが、総理大臣を退任するにあたり、敵基地攻撃能力を自衛隊に付与すべきとする談話を残した。 それを受けて18日の閣議ではイージス艦2隻を新造して陸上イージスシステムを搭載すること、および、スタンド・オフ・ミサイルを導入して弾道ミサイル抑止力とすることが決められた。 イージスシステムの迎撃ミサイルSM3では、ディプレスト軌道のミサイルに対応できないことが巷で述べられているなど、イージス・アショア断念の真相は不明な点が少なくない。
 続いて、外山氏が「敵基地攻撃能力とはなにか」,「自衛隊がそれを保有するとどうなるのか」さらに「それで日本は平和になるのか」と問題提起し、最近のいくつかの論者の見解も紹介しながら話を進めた。 まず、敵基地攻撃能力は9項目からなること、2019~23年の中期防衛力整備計画では総額27兆円余りを投じて攻撃的兵器であるF35Bステルス戦闘機の購入とそれを艦載する護衛艦の改修、長距離ミサイルの購入、宇宙部隊・サイバー部隊・電磁波作戦部隊の新編成などが進められており、 多次元統合防衛能力が謳われていること、専守防衛から敵基地への先制攻撃能力保持で抑止力とする論調が出ていること、などが紹介された。
 3人目の松原氏は憲法学者らしく「敵基地攻撃能力の保有は憲法違反」と題した明快な話であった。憲法9条の2項でいう戦力の不保持をめぐっては、政府解釈は
     軍事力全般 -> 近代戦争を遂行する力 -> 自衛のための実力をのぞく
と変遷したが、2014.7の安倍内閣の集団的自衛権の行使容認の閣議決定で大きく変わることになった。 敵基地攻撃能力についても1956年の鳩山内閣の解釈を引用した2020年8月の自由民主党の提言は同じ自衛のためとは良いながら、後者は集団的自衛権の行使を含むので、専守防衛論から逸脱したものとなっている。 とりわけ、9月の安倍談話は国際法の遵守というが、国際法では先制的攻撃は自衛のためを含めて禁じている。敵基地攻撃能力で先制的自衛を言うのは憲法および国際法違反である。
 3人の講師の問題提起に対しては10名近い市民の質問やコメントがあり、大変活発な議論が行われたミニ講座であった。
閣議決定
 「新たなミサイル防衛システムの整備等及びスタンド・オフ防衛能力の強化について」2020年12月18日
 
(スタンド・オフ防衛能力の強化について) 2 自衛隊員の安全を確保しつつ、我が国への攻撃を効果的に阻止する必要があることから、島嶼部を含む我が国への侵攻を試みる艦艇等に対して、脅威圏の外からの対処を行うためのスタンド・オフ防衛能力の強化のため、中期防において進めることとされているスタンド・オフ・ミサイルの整備及び研究開発に加え、多様なプラットフォームからの運用を前提とした 12 式地対艦誘導弾能力向上型の開発を行う。
スタンド・オフ・ミサイルの配備
防衛省資料より
・12式地対艦誘導弾の改良 2012年から装備された12SSMは三菱重工製で射程150km程度であったが、現在、これを約2倍に伸ばした改良型の導入が始まっており、宮古島から尖閣諸島をカバーできる。さらに2025年を目標に射程が900km以上に能力向上させる開発が閣議決定に盛り込まれた。
・JSM ノルウェー製の射程500kmのミサイル導入が年次進行中
・JASSM 米国製の射程900kmのミサイルで、F15戦闘機から発射
・LRASM 米国製の射程900kmのミサイルで、これを発射できるF35戦闘機を導入
 これ以外に、巡航ミサイルや高速滑空弾、極超音速誘導弾の開発も防衛装備庁で計画されている。 標的が艦船から陸上施設に変われば敵基地攻撃能力である。

 

核兵器禁止条約が発効 日本政府へ参加を求めよう

 2017年夏の国連での会議で,核兵器の開発、製造、保有、使用は非人道的で国際法に反するとして賛成122,反対1,棄権1の賛成多数で核兵器禁止条約が採択されていました。このほど、発効に必要な50を越える国の批准から90日が経過し、2021年1月22日に条約が発効しました。
 今後、1年以内に条約締約国会議が開かれ、核兵器廃絶に向けて話し合いを行うことになっています。しかし、核兵器保有国およびその傘下にいるとする日本などは、条約批准はもとより、その会議へのオブザーバー参加もしない意向であると伝えられています。
 唯一の戦争での核兵器被爆国である日本は、核兵器の惨禍を訴え、被爆者支援の経験と知識を世界中で共有するように努力することが求められています。日本政府に、会議へのオブザーバー参加を求めるとともに、遅くない時期に条約に批准する取り組みを強めましょう。
(参考)NHKニュース https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210122/k10012827231000.html

福島第1原発事故10年

 東日本大震災発生から3月11日で10年となります。津波は多数の人命を奪い、町を破壊しました。犠牲者は戻りませんが、町の復興事業は進みつつあります。一方、津波で制御電力を失いメルトダウンに至った東京電力福島第1原発では、放射能汚染水は溜まり続け、核燃料の取り出しにも至っていません。周辺地区では帰還困難な状態が続いており、原発事故は継続状態といえます。
 10年前まで、原発はわが国の電力供給に不可欠の存在と言われていました。しかし、事故前25.1%を占めていた原発による発電量は6.2%と1/4に減少し、再生可能エネルギーによる割合が9.5%から2倍の18.0%に増加しています。発電電力量自体が事故前から1割減っており、電力不足は起きていません。
 政府は昨年暮れ、2050年の脱炭素化に向けた「グリーン成長戦略」を打ち上げましたが、原発と化石燃料の合計の割合を3~4割とするなど、原発をどうするのか明示していませんでした。再生エネルギーの比率が5~6割としていましたが、参考にしたという英国のデータの引用が誤りであることが英国大使館から指摘され、1月下旬に改めて6案を提示しています。どうやら原発の比率は2030年目標の20%を維持したいという思惑が垣間見えます。つまり、原発を再稼働し、しかも例外的という60年間の運転を前提とするか、あるいは新増設を見込んでいると考えられます。
 福島第1原発の廃炉が2050年に終わっているとは考えられません。事故に対する反省もなく、高速増殖炉が無理であるにもかかわらず、核燃料サイクルを固執していることが根本にあります。こうした政策の転換こそが今日に必要です。

12月中旬以降、山口支部および会員が関係した活動

・ 12月4~6日 日本科学者会議第23回総合学術研究集会(東京;Zoom開催)
 5日午前C2平和問題分科会で増山会員が「計画中止に追い込まれたイージス・アショアと山口県の地元のたたかい」と題して報告
・ 12月8日 第40回山口平和行進出発式(9時、県庁藩庁門前) 増山会員が来賓挨拶でイージス・アショアの配備撤回と学術会議会員任命拒否問題に関して述べた
・ 12月20日 YU学び舎第23講 「イージス・アショア配備断念と敵基地攻撃能力」
 増山会員が「なぜ、イージス・アショアを断念したか」、外山氏が「」敵地攻撃能力とは」、松原会員が「敵地攻撃能力の保有は憲法違反」の3本の報告をし、参加市民からも活発な質疑、意見表明があった。参加者は27名
・ 2月13日 岩国平和委員会新春講演会「敵基地攻撃能力の保有で「平和」を実現できるのか」参加者30名程度 松原会員が講師
・ 2月16日 宇部市平和まちづくり学校「福島第一原発事故10年」 参加者16名、増山会員が講師

会員への事務連絡
・年度末に異動のある人は事務局までご連絡ください。
・2021年度の会費の事前納入をお願いしております。
  郵便振込の人は1月に配布の会誌に振込用紙が同封されていましたから、それを使ってください。
  給与引き落とし(山口大学関係者のみ)の人は年度末に引き落としとなります。

編集後記
 下関市立大学の特別支援教育専攻科の授業料は経済学部学生の約半額の年間273,900円で、入学検定料、入学金等と合わせて、35万円弱と設定されている(全国の国立大学の特別専攻科と横並び)。10名の入学定員が充足しても、授業料等の収入では、特別専攻科専任教授ほか4名の教員と、非常勤講師手当に遙かに不足し、財政的にバランスしない。その結果、経済学部の教育研究費にしわ寄せはいかないのだろうか。市立大の経営担当理事(山口銀行取締役)はどう考えているのだろうか?
JSA山口支部事務局
   〒753-8511 山口市吉田1677-1 山口大学教職員組合気付
  Tel 083-933-5034  Fax 083-921-0287  e-mail fuy-union(at)ma4.seikyou.ne.jp

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