日本科学者会議山口支部ニュース 第194号(通算)(2021年8月18日)
つ う し ん
WEB版 2021-8-21

 

第52回日本科学者会議定期大会が開催
 大会は5月30日と6月13日に分け、オンラインで開催され、山口支部からは30日には松原会員が、13日には大和田会員が代議員として参加しました。大会議案、決議等は、日本の科学者の付録として別冊で配付された通りです。なお、提案の決議案5本のうち、核兵器禁止条約、JSA決意表明、学術会議任命拒否、辺野古基地に関する4本が採択され、前回保留となっていたポストコロナ社会に関するものは不採択となりました。

 

コロナ・パンデミックの中での地域医療とまちづくり
 「YU学び舎」第24講として、5月15日(土)宇部協立病院の野田浩夫医師による表記のオンライン講演会が開催され、病院で感染者が出たときの対応を含めて、臨床医として地方病院に責任を果たす立場から話されました。「日本の科学者」8月号の科学者つうしん欄の記事から要約を引用します。

  • 新型コロナの発生と大流行の原因は新自由主義的なグローバリゼーションにある。次のパンデミックの候補もすでに見え隠れしている(たとえば2012年に日本では山口県で第一例目が発見されたSFTS重症熱性血小板減少症候群など)。
  • その被害の広がり方はただ拡大した物や人の交通によるというだけではなく、新自由主義が生んだ格差の谷間の最深部(最貧部)に沿って広がり、健康格差を含めて格差自体をさらに深く急峻なものにしてしまった。今回、日本では女性差別の拡大という特徴も伴っている。
  • 生物工学によって早期に出現したワクチンによる「救済」も世界的格差の上層の先進国のみに限定されてしまいそうである。かつ、その救済が本物であるかどうかにも懐疑的であるべきだ。
  • 新型コロナへの対策自体がショック・ドクトリンとして際限のない金融緩和によってバブルを生みながら医療制度や経済の民主主義を破壊する方向に進んでいる。
  • その発生、拡大、解決の様式において、気候危機と完全な相似形にある縮小版であることから、新型コロナへの対応が私たちにとって気候危機のための闘いを促進する契機になりうることを指摘し、参考までにユーチューブの動画を紹介する。
     コロナ感染防止でピリピリするなかで、山口市内の投影会場とオンライン参加者とを合わせて30人弱が参加し、1時間20分の講演後、熱心な質疑が繰り広げられました。 野田医師の講演は動画で視聴できるので、希望の方は支部事務局にお申し出ください。


    (参考図) 山口県の新規感染者数の推移(NHKのデータを元に編集部が作成)。
    県内の感染者がゼロの2020年3月1日が左端で、5月15日は第4波の真っ最中であった。右端は536日目の2021年8月18日、過去最高の105名の新規感染者が出たが、7日間平均値は64.4人で、まだ増加の途中である。

  • 原発をつくらせない山口県民の会による県知事への申し入れ
     5月30日に県民の会の総会が開催され、中国電力による上関原発計画予定地の海上ボーリング調査申請について県の許可の取り消し及び、工事等の凍結を求める申し入れを県知事宛に提出することになり、会の構成団体の一つであるJSA山口支部もその申し入れに参画しました。(申し入れ文書は次の資料)

    資料
    2021年6月22日
    山口県知事 村岡 嗣政 様
    原発をつくらせない山口県民の会
    憲法を活かす市民の会・やまぐち
    自由法曹団山口県支部
          日本科学者会議山口支部
         山口県民主医療機関連合会
       
    中国電力による上関原発計画予定地の海上ボーリング調査申請について
    許可の取り消し及び、工事等の凍結を求める申し入れ
     平素より、山口県民の安心・安全のためにご尽力されていることに、心より敬意を表します。
     さて、2021年5月20日、中国電力は、上関町に建設を計画する上関原発について、予定地の海域の調査に必要な海上ボーリング調査のため「一般海域占用許可申請」を山口県に提出していました。
     中国電力からは、これまで2度の申請がされ、県民の反対にも関わらず県は許可を出し、2度目の2020年12月15日にも調査が開始できないまま中国電力は調査を断念しています。ところが、山口県は6月11日付けで「申請に問題は無い」として三度、ボーリング調査に必要な許可を出しました。
        1982年に上関原発建設計画が浮上してから40年近くが経ちました。2011年3月11日の東京電力福島第1原発事故から今年で10年が経過しています。地球環境と自然を守ろうという潮流は、80年代の視点よりも世界中で強くなっており、3.11の原発事故をきっかけに多くの国が脱原発に舵を切りました。
     東京電力福島第1原発事故は今も収束の目処は皆目立たないばかりか、事故を起こした原子炉の内部の状態の把握もできていません。解体・廃炉どころか、制御も出来ず、今後起こりうる事態の予測も困難です。また、日本中にある使用済み核燃料の処分方法も目処が立っていません。
     その一方、すでに日本中には、多くの老朽化した原発があります。原発は稼働中に放射性物質を出し続けること、原発で働く人々が運転中や点検中に被曝してしまうことが避けられないのも問題です。そして、日本は地震や自然災害が多い国だということは言うまでもありません。
     原発事故の処理・廃炉に道筋をつけること、これまで原発立地・計画に翻弄されてきた地域が原発に依存せずに健康で文化的な生活が保障される政策を充実させていくことが、これから目指す方向だと考えます。
     この間に世界の流れは再生可能エネルギーの普及へ向かっています。それでも今なお、原発新設計画を継続することは、現在と未来の県民の安心・安全を守る政策とは凡そ相反する政策ではないでしょうか。原発新設へとつながる、中国電力による原発計画予定海域のボーリング調査の許可の取り消しを求めるとともに、上関原発建設に依拠する作業の凍結を求め、私たちは様々な立場の共同で、下記項目について申し入れますので懇談の場を設けていただき対応をお願いいたします。
     なお、申し入れの回答については、後日、文書での回答をお願いいたします。
    1. 中国電力に対して、安全基準の変更に伴う新規原発の新規制基準が策定されるまで、「一般海域の占用許可」を含む全ての許可を白紙に戻し、工事等を凍結すること。なお、策定された場合は、情勢を踏まえて立地可能調査を含め計画の見直しをさせること。
    (1) 既存原子力発電所に係る国の安全基準が大きく変更されているにも関わらず、中国電力による上関原発建設計画は旧来のままのものである。原子力発電所の建設を計画するのであれば、今後新たな建設計画の作成提出が不可欠のものであるにも関わらず、公有水面の埋め立てに繋がりかねない調査を施行しようとすることは、法律上の重大な問題が生じるものではないか。
    (2) 上関原発の建設に関し「地元意思の尊重」と言う場合の地元とは、具体的にどのような範囲を指したものか。
    (3) 上関大橋の安全性については損壊事故以来、様々な懸念が表明されているが、このことは原発事故に関する避難計画の信頼性を大きく損ねているのではないか。
    (4) 当初、計画時と現在の原発を巡る情勢の変化を、県当局はどのように捉えているのか。
    2. 中国電力が、2020年12月15日にボーリング調査を断念した理由についてどのように把握されているのか。
    3.上関原発建設計画を中止すること。
    4.国に対して、エネルギー基本計画に原発の新増設を盛り込まないよう要望すること。
    以上

     

    真夏の夜の夢想 (寄稿)
     8月9日、防衛省が山陽小野田市埴生に造成工事を進めている宇宙監視レーダーを巡り、同市の埴生公民館で住民団体「宇宙監視レーダー基地建設に反対する会」が主催する学習会が開催され、講師の依頼を受けて「レーダーの原理と宇宙監視の方法」と題して1時間余のお話をしてきた。30分以上の質疑応答の時間には多くの参加者から質問や意見表明があったが、そのうち2名からは私の講演がよく分からなかった、皆が関心のある電磁波の人体への影響を話して欲しかった、という発言があった。
     そこで、帰宅後、学習会の幹事にあてた手紙を引用しよう。

     1mW/cm2という電波防護の基準が妥当であるか否かと言うことに議論の余地がありそうだとは思いますが、何しろその分野は門外漢です。そこで、政府が採用していて、自衛隊も守らねばならないという1mW/cm2の基準が、アンテナからどれだけ離れていればOKなのか、自衛隊は数値や図面で示すべきだということを争点にしました。なにしろ強力な電波を発するものですから、飛行制限空域を含めて立ち入り禁止区域が必要であると思います。
     さらに、人の健康に左右する補聴器、医療用機器などは1mW/cm2よりも厳しい制限が必要なことは、イージス・アショアの立地調査書で防衛省自身が認めているので、これが守られるかどうか、立地調査書並みの詳しいデータを公表してもらわないといけません。
     こういうことが私の主張ですが、あれやこれやとお話しして混乱させてしまったようでお詫びします。
     最後に、6基のパラボラアンテナを同期させて電波を出すか、それぞれが出す電波を同一点に集中させるかという、差異について補足します。前者の場合は原理的には単一アンテナの6倍の電界強度とすることができて照射された物体面でのパワーは36倍ですが、後者であれば単純に6倍のパワーです。前者の可能性を述べたのは勇み足のような気もします。時々刻々と監視する対象物の方位が変化する場合、そこまでの技術力はないような気がします。(電波天文学では観測対象の天体は動き回るものではないので、受信電波の位相をそろえることはできます。ただし、大気層による電波の揺らぎまで補償するというような時間を掛けた解析です。瞬時にレーダーで敵を識別するという軍事目的にはとても使えそうにない技術です。)

     問題は下から5行目の下線部である。いったん、修正した手紙を送って、一晩寝て考えて、再修正した内容が上の記述。話を簡単に2つのアンテナで同じ振動数の電波を同期させて放射すると、波の山と山、谷と谷が重なると振幅は2倍になる場所が出る。波のエネルギーは振幅と振動数のそれぞれの二乗なので、4倍という理屈。でも、波の発生源で考えると、2倍ではないのか、エネルギー保存はどうしてくれる。と夢の中で考えたが、ヤングの干渉実験を思い起こすと、干渉して強めある箇所と弱める箇所(山と谷が打ち消しあう)が生ずるので、強めある条件のところにエネルギーが集中してエネルギー密度が4倍となるので、総エネルギーは保存しているはずというのが夢想の結論。この思考実験は正しいか否か、聡明な諸氏のご批判をお願いしたい。(増山博行)


    2月中旬以降、山口支部および会員が関係した活動
    ・3月23日 JSA56期中国地区会議第1回がオンラインで開催 山口支部からは大和田、増山会員が参加
    ・5月3日 憲法を守る山口集会で松原会員が「”わきまえない”人々と憲法」と題して講演、市民120人参加
    ・5月15日 YU学び舎第24講「コロナ・パンデミックの中での地域医療とまちづくり」 野田会員がオンライン講演
    ・5月30日 原発をつくらせない山口県民の会第25回総会 増山代表世話人が挨拶
    ・5月30日、6月13日 JSA第51回定期大会 山口支部からは 松原(30日)、大和田(13日)会員がオンライン参加
    ・6月15日 原発をつくらせない山口県民の会、JSA山口支部、他3団体の連名で山口県に上関原発計画にかかる海上ボーリング調査の許可の取り消しを申し入れ
    ・7月11日 YU学び舎第25講「日本に風力発電はいらない!石狩湾岸で抱える様々な問題」石狩市民の会の安田さんがオンラインで話題提供
    ・7月20日 JSA57期中国地区会議がオンライン開催、増山代表幹事が参加
    ・8月9日 山陽小野田市の宇宙監視レーダー基地建設に反対する会の第2回学習会(埴生地区公民館)で増山会員が講師

    編集後記
     前号を出してから気がつくと半年が経過している。4~5月には発行予定であったが、新学期からの授業計画がコロナに影響を受けないように準備を整えて4月が過ぎ、5月連休明けには大学生のコロナ感染で2週間の遠隔授業を余儀なくされてしまった。この間には5月15日のYU学び舎をオンラインで支障なく開催することが出来ているが、その他のJSA活動がおろそかになっているという誹りは甘受しなければならない。それにしてもコロナウイルス変異デルタ株は強烈!いつになればウイルスと共存状態になるのだろうか?
    JSA山口支部事務局
       〒753-8511 山口市吉田1677-1 山口大学教職員組合気付
      Tel 083-933-5034  Fax 083-921-0287  e-mail fuy-union(at)ma4.seikyou.ne.jp

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