日本科学者会議山口支部ニュース 第196号(通算)(2022年3月26日)
つ う し ん
WEB版 2022-3-27

 

アピール

ロシアはウクライナ侵略戦争をやめ、直ちに撤退すべきである

2022年3月20日
山口大学関係者有志九条の会講演学習会参加者一同
 このたびのロシアによるウクライナ侵攻は、主権の尊重、領土の保全、武力行使の禁止を義務付けた国際連合憲章第2条3および4に違反している。 ロシアの武力行使は国際連合の常任理事国としての資格に逸脱するものである。 ロシアの侵攻は他国の支配を目的とする核大国による侵略戦争であり、到底容認できない。 ロシア軍は直ちにウクライナから撤退すべきである。
 今回の事態の推移は独立国家間の係争を武力で解決しようとする行為がいかに犯罪的な戦争になるかを白日の下にさらした。 20世紀前半の悲惨な戦争を教訓に国際連合が組織され、わが国では憲法9条で明記された戦争放棄の概念が確立された。
 わが国の一部の勢力は、このたびのロシアによる侵略行為を機に「敵基地攻撃能力の保有」や「核共有」を声高に唱えているが、これは武力対武力の対立をあおり、軍拡競争を際限もなく高めるものである。 軍備増強で戦争に巻き込まれる危険を拡大することはあっても、国民の暮らしと命を守ることにはならない。 いまこそ、憲法9条の理念を全面にたて、反戦・平和の力を結集し、武力による威嚇や武力の行使に反対しよう。

講演と学習の集い

「敵基地攻撃能力」保有論と憲法9条  〜ロシアのウクライナ侵略の行方は?〜

 3月20日(日)の午後、山口大学内を主会場とし、ZOOMによるオンライン配信で表記の講演と学習の集いが開催されました。
 2020年6月の陸上イージス配備計画撤回後、代替策として急浮上してきた「敵基地攻撃能力」保有論は、同年9月、辞意表明後の安倍首相談話の中で、次の菅政権への「宿題」として課され、岸田政権に引き継がれています。 岸田首相は、2021年12月の所信表明演説と今年1月の施政方針演説において、「いわゆる敵基地攻撃能力を含め、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討」すると明言しており、今後の動向が注目されています。
 こうした議論がそもそも憲法解釈上、成り立つのかを考えるため、山口大学関係者九条の会が主催、科学者会議山口支部が共催し、YU学び舎と山口大学教職員組合の後援で講演学習会が企画されました。 最初のチラシが配布された直後、ロシアによるウクライナ侵略が生起し、「ロシアのウクライナ侵略の行方は?」という副題が追加され、参加者を募りました。 当日は、山口大学内の主会場に11名、オンラインを合わせて40名弱の参加者があり、1/4はJSA支部会員で、関西や首都圏からのオンライン接続もありました。

 講師の松原幸恵さん(山口大学、憲法学)は冒頭、「敵基地攻撃」という表現を変えようとする動きもあり、本質を押さえることの必要性を述べました。 続いて、日本国憲法における平和主義は前文と9条に記されていることを概説した後に、9条2項に関する政府解釈は朝鮮戦争を経て個別的自衛権の下での「敵基地攻撃能力」保有論に展開したが、1956年2月衆議院での政府答弁では「法理的には自衛の範囲」と述べており、現実的な政策とは考えられてはいなかったことが指摘されました。
 その後、2014年の安倍内閣は憲法解釈の変更を閣議決定し、2015年に集団的自衛権の行使を容認する安保法制を国会で通しています。政府与党は1956年の「敵基地攻撃能力」保有論を根拠として憲法の範囲内であるとか、専守防衛の考え方に変更はない、といっていますが、「敵基地攻撃」の発動は先制的自衛・攻撃は違反であるとする国際法にも抵触しており、憲法解釈上も無理があります。改憲論者は、自衛隊明記の条項を付け加える「憲法改正」によって9条2項の死文化を狙っているのが現在です。
 現実問題としては、「敵」とはどこなのか、事前に基地を把握できるのか、周辺国との関係ではむしろ軍拡競争には拍車がかかり、巨額の費用を国民におわせ、事が起こると国民の財産生命への危険を増すだけではないのかと松原さんは指摘しました。
 そして、ウクライナ危機への便乗論に警戒するとともに、「政治的及び経済的取り決めのみに基づく平和」は永続的ではなく、平和は「人類の知的及び精神的連帯の上に築かれなければならない」というユネスコ憲章前文の大切さを強調して松原さんは講演を締めくくりました。
 会場及びオンライン参加者の間で活発な質疑・コメントがありました。 そして安保法制の下で政府が有事の判断のフリーハンドを有することの危険性や、今回の紛争は何故起きたかの検証は今後の新たな紛争を起こさせないためにも必要であること、ウクライナの人々を支援することは必要だが、政府に軍事的援助をすることは危険であること、などの意見が交わされました。
 最後に、主催者から集会アピールの提案があり、一部字句修正のうえ、採択されました。(アピール文は前出;週明けにロシア大使館にFAXされました。)
 参加者からは「9条の憲法解釈について、自民党が少しずつ言葉の定義をズラして、現在「敵基地攻撃能力」というほとんど先制攻撃のための議論を進めようとしていることがよくわかりました。」 「プーチン大統領の一連の発言と侵略行為に大きな怒りを感じます。全世界的な意味での人権保障、人民的民主主義の定着がいかに浅薄なもののなっているかを痛感し、私たちの今後の議論と努力の必要性を感じます。」 「ロシアは国際法違反の侵略を行っていると批判している一方、国際法違反の敵基地攻撃能力を保有しようとしている政策の根本的矛盾が見えた学習会でした。」 「ロシアを責め立てれば、第3次世界大戦に発展するかもしれないという危機感を持って日本は中立公平の立場に立って、仲介に徹してほしい。」 などの感想が寄せられました。

編集後記
 2月24日にロシアはウクライナ侵略戦争を開始した。数ヶ月前からの米国による警告の下でも、大胆不敵にもその通りに実行したプーチンは核兵器の使用も辞さずと世界を脅迫している。無差別攻撃でウクライナ人口の1/10がすでに難民として国を離れ、死者は公式発表の千人の10倍以上であろう。世界の世論に訴え、一刻も早くジェノサイドをやめさせることが必要である。 こういう事態の中で、編集子が参画したアピール文を冒頭に持ってくるという通常とは異なる編集の「つうしん」となっている。支部活動の報告は次号の予定。
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