日本科学者会議山口支部ニュース 第202号(通算)(2023年11月24日)
つ う し ん
WEB版 2023-11-28

 

「中間貯蔵施設」建設をめぐって

 2023年8月2日、中国電力は中間貯蔵施設の建設に向けての立地調査を上関町に申し入れた。 これに応えて、8月18日に臨時町議会が開かれ、意見を述べた10人の議員のうち反対を表明したのは3人という中で、 西哲夫町長は受け入れを正式に表明した。その前後には、現地では上関原発立地のために中国電力が取得した 敷地内の四代地区に近い山地で地質調査準備を始めていると報じられている注1)
 上関原発計画は1980年代初めに浮上し、1983年に原発推進派の町長が誕生して以来40年を経過している。 原発関連の国の交付金は2021年度までに76億円を越え、中国電力の寄付金を合わせると112億円と言われている。 町の振興、過疎化対策・・・の掛け声とは裏腹に、人口減少・高齢化はやまず、交付金で建てた大型ハコモノ施設の 維持が町の財政にのしかかっている。2011年の福島第1原発事故を経て、原発建設審査は厳しくなり、 追加で求められている海上での地質調査も反対派住民の抵抗で進捗しておらず、 原発建設計画は中断した状態となっている。2013年以降、国の交付金は毎年8千万円を下回り、 新たな金蔓として浮上したのが原発で使用済みとなった核燃料の中間貯蔵施設の建設という。 原子力村の入れ智恵であろうか、町から中国電力に施設を打診したと報じられている。
 わが国では原発でウランを燃やしたあとの使用済核燃料を再処理して原発に再利用する核燃料サイクルを 国策としてきた。再処理で取り出せるプルトニウムは「国産エネルギー資源」という位置付けである。 しかし、青森県六ケ所村の再処理工場は予算と年限を大幅に超過しても完成が見通せず、 フランスで再処理してもらったプルトニウムをウランと混ぜたMOX燃料を限られた原発で使用しているだけで、 核兵器原料のプルトニウムをため込んだ国として世界中から厳しい目で見られている。そのそも、 核燃料サイクルは米国でも行われておらず、技術的にも経済的にも無理であろう。
 さらに、再処理工場への搬入が止まっているため、使用済み核燃料は各地の原発敷地内で溜まる一方となっている。 貯蔵施設がすでに75%ほど埋まっている関西電力は、原発再稼働の条件として、年内に使用済み核燃料を県外に 搬出することを福井県に約束させられている。取り敢えずはフランスの再処理工場へほんの一部を 送り出すことにしたが、青森県のむつ市のリサイクル燃料貯蔵(株)[RFSCO]の中間貯蔵施設の利用は拒否されており、 新たな施設建設が喫緊の課題であった。そこへ中国電力と共同で上関に建設準備を行うという秘策が浮上したようである。
 RFSCOの資料によると、むつ市の中間貯蔵施設は東電と日本原電の使用済み核燃料を貯蔵するための施設で、 2023年末に3千トン規模の貯蔵建屋を1棟完成させ注2)、その後2棟目を建設し、 5千トンの貯蔵量とすることになっている。核燃料サイクルの構想では、各地の原発で使用した核燃料は敷地内で 何年か水冷を継続して保存し、その後、十分冷めてから空冷式のキャスターに収めてフランスあるいは 六ヶ所村の再処理工場に運びこむことになっていた。しかし、フランスで再処理してもらえるのはわずかであり、 六ヶ所村の工場の完成メドはたたない。原発敷地内での貯蔵容量が一杯となると原発運転は停止となるので、 これを避けるため、RFSCOを創設し、中間貯蔵施設を建設している。RFSCOの建屋およびキャスタ(貯蔵容器)の 使用期間は最長50年としており、その間に再処理工場へ搬出することを前提として設計されている。 なお、RFSCOの3000トン所蔵の建屋1棟は図1に示すように、 幅62m、奥行き131m、高さは28mで原子力規制庁の許認可と国際的な査察の対象(何しろ、プルトニウムを含むので) となっている。なお、キャスターは高さ5.4m、直径2.5mで、ひとつのキャスターには10トンの使用済み核燃料が入り、 中間貯蔵施設では空冷で保管することになっている。
 同じような3000トンの貯蔵施設を上関町長島の中国電力が確保している土地に建てるとすると、 管理棟などを別としても1棟あたり外構を含めて200m×100mは必要であろう。そこで、国土地理院の地図上で 200m×100mを四角で示したのが図2である。比較的なだらかな標高100m前後の所を 選んだが、それでも平均傾斜が20°を越える。この四角には山を切った法面や埋め立ての擁壁部分は含まれない。
 上関町長島のこの付近の表層地質は領家変成岩の縞状片麻岩帯であるが、泥質と珪質の境界(古い断層)が横切っている。 長島周辺には多数の古い断層や活断層があり、予想されている南海大地震では断層が動くことだけでなく、 斜面の崩落の危険性もある。地震だけでなく、近年は異常気象で想定外の豪雨も多発している。 上関町の防災ハザードマップでは隣接する同じ地質の四代地区は地滑りや崩壊の危険性が明記されている。 決して適地というわけにはいかない。
 この計画が明らかにされた直後の中国電力社長の記者会見では、中国電力は使用済み核燃料の貯蔵は 島根原発の区域内で事足りており、共同で建設するという関西電力が専ら中間貯蔵施設として使用するのだという。 たしかに、わざわざ松江から上関に5千トンの専用船で搬送・陸揚げし、さらに管理員を常駐させるのでは コスト的に上策ではないだろう。電力販売カルテル問題では、関西電力は抜き掛けで公取委に申告して課徴金を免れ、 もう一方の中国電力だけが独禁法違反の課徴金としては史上最高額を通告されている。 こうした関係の関西電力に中国電力が何故の恩義をうるのかと詮索されているが、真相は不明である。 上関原発計画が進まない中で、関西電力が施設を作り、使用料を払ってくれれば、上関町に対する原発マネーの 交付と合わせて、中国電力の腹を痛めずに三方良しということなのか?将来的には中国電力の使用する余地を残して。
 最後に、原発マネーの理不尽さについて触れておきたい。中間貯蔵施設建設の調査が開始されると地元自治体には 毎年1.4億円が交付され、知事の同意が得られてからは毎年9.8億円が交付となるという。調査段階から原発マネーが 交付され、建設に向けて計画が進むにつれて金額が増える仕組みは、核廃棄物最終処分場立地問題でもそうである。 町長の専決でいったん交付金を手にすると、反対者があってもその意見を閉め出し、交付金で賛成論者を潤す。 その結果、建設まで持ち込めば成功と評価するのだろう。立地条件が不適当であることがわかっていても調査中は金が出て、 別の誘致が起こるの呼び水とすることも出来よう。原資は電気代に含めて国民に負担させるので、 国も電力会社も痛くも痒くもない。上関原発誘致でも、一番に不利益を被る祝島漁民の声を押さえ込み、 議会で多数派ということで、住民投票もしない。地元商工会や建設業界の利益を代弁するような地方自治は、 本当の民主主義とはかけ離れている。原発マネーは「分断・差別・支配」のさいたるものといえよう。

注1:中国電力は8月21日にボーリング調査のために森林伐採届を上関町に提出していたが、 期限切れの11月19日になっても伐採に着手していない。
注2:RFSCOの中間貯蔵施設の稼働時期は現在では2024年度にずれ込んでいる。
付記:脱稿の直後、関西電力は原発敷地内に中間貯蔵施設を建てる計画を福井県に示し、 10月13日に福井県知事は同意したと報じられている。関西電力と中国電力の共同による上関町での 中間貯蔵施設計画との関係は曖昧にされている。いずれにせよ、関西電力の原発の稼働を続けること 条件として福井県がのんでくれればどちらでも良いのだろう。使用済核燃料を県内に留めておく方が 核燃料税を確保できると福井県が態度を軟化させたとも勘ぐれる。げに原発マネーは恐ろしいものである。 核依存からの脱却を明確にした電源3法の改正こそが必要である。

 2023年10月 つうしん編集部


YU学び舎第32講
「アベノミクスとは何だったのか」話題提供者 下関市立大学 関野秀明教授

 9月17日(日)に山口市内の総合保健会館の一室で開かれたYU学び舎第32講は、下関からみえた 関野教授により表題の講演があり、オンライン参加を含め約50名の市民が参集して活発な質疑も行われた。
 安倍没後であるが、デフレからの脱却の掛け声ではじまったアベノミクスの総括は政府の手では行われていない。 それどころか、急速なインフレ、円安が庶民の生活を直撃している。アベノミクス 「量的金融緩和」「成長戦略」とは どんな仕組みで何を目指し、何を達成したのかを、10 年間の経過を振り返り、 冷静に統計的事実と経済理論に基づいた評価が明快に下された。 すなわち賃金、所得、物価、雇用、貿易収支、 企業収益、株価等の経済指標の変化からアベノミクスの本質を分析。さらにアベノミクスの弊害である インフレの発生と政府、企業、家計の債務危機、それを乗り越える「出口戦略」を提起するという、 大変興味深い1時間半であった。


JSA山口支部定期大会のお知らせ
別添資料のように山口支部定期大会は12月17日(日)午前に開催されます。支部事務局では会員各位に参加確認票の事前提出をお願いしています。詳しくは別添資料。
JSA山口支部事務局長 大和田正明


支部活動日誌

6月29日 支部ニュース「つうしん」No.201 発行
7月23日 総がかり行動やまぐち県民集会 講演「沖縄のいま」 講師 前泊沖縄国際大学教授 参加者約300名、支部会員5名参加
7月30日 宇部憲法講演会 講演「改憲は私たちをどこに導くか-自民党改憲案と安保三文書」講師 松原会員
9月17日 ミニ講座「YU学び舎」第32講 「アベノミクスとは何だったのか」 講師 関野下関市立大学教授 参加者約50名、支部会員4名参加
10月22日 山口地域労連学習会 「憲法9条と軍事費」講師 松原会員

  

編集後記
 編集人が48年間勤めた大学を離れると、とたんにキャンパスに行くことすらも敷居が高くなってしまい、 これに輪を掛けるように老いの学びを始めてしまったせいで、編集活動が滞っていることをお詫びしたい。
 ところで11月17日の衆議院文部科学委員会で国立大学法人法改正案が可決されたと新聞片隅に報じられている。 大規模大学に学長と外部委員を含む3人以上の委員からなる「合議体」を文科相の承認を受けて設置するというもので、 行財政誘導で政府財界の意向を直に大学の運営方針として決めることが出来るようになる。
 この合議体は大学ファンドからの支援を受ける国際卓越大学に設置すると数年前から言われていたが、 ファンドが赤字の中、卓越大学は今年度は東北大1校の選定に終わった。しかし、東大、京大、阪大、名古屋大 (東海国立大学機構)にも合議体の設置を義務付ける。国に逆らわれないようにするという意図が見え見えである。また、 その他の国立大にもおくことが出来るとされており、ゆくゆくは対象校が拡がることは必至。恥ずかしながら、地方大学は 卓越大学とは無縁と思っていたので、こういうことになろうとは最近まで気づかなかった。 まさに国立大学法人化からの一連の流れは「茹でカエル」のごときだ。
 わが国の創造的研究成果が少なくなったと叫ばれているが、多くの論者の指摘通り、国立大学の法人化とセットの 運営費交付金その他の基盤的経費の削減のため、成果に追い立てられることなく自由で創造的に研究する環境が失われた。 さらに人件費削減を念頭に導入されてきた研究者の任期制が大量の路頭に迷う人材を輩出していることにも原因がある。 優秀な人材は大学院を敬遠している。将来に展望がなくなれば大学生の学力低下も起こってくるであろう。教育・研究は国家百年の大計とはいつの時代の言葉であろうか。
JSA山口支部事務局
   〒753-8511 山口市吉田1677-1 山口大学教職員組合気付
  Tel 083-933-5034  Fax 083-921-0287  e-mail fuy-union(at)galaxy.ocn.ne.jp
教職員組合のメールアドレスは6月より変更となっています

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