日本科学者会議山口支部ニュース つうしん No.202/206 抜粋編集(2025年2月25日)
使用済み核燃料 中間貯蔵施設について

 

 

「中間貯蔵施設」建設をめぐって
つうしん No.202, 2023/11/24 (誤字は修正)

 2023年8月2日、中国電力は中間貯蔵施設の建設に向けての立地調査を上関町に申し入れた。 これに応えて、8月18日に臨時町議会が開かれ、意見を述べた10人の議員のうち反対を表明したのは3人という中で、 西哲夫町長は受け入れを正式に表明した。その前後には、現地では上関原発立地のために中国電力が取得した 敷地内の四代地区に近い山地で地質調査準備を始めていると報じられている注1)
 上関原発計画は1980年代初めに浮上し、1983年に原発推進派の町長が誕生して以来40年を経過している。 原発関連の国の交付金は2021年度までに76億円を越え、中国電力の寄付金を合わせると112億円と言われている。 町の振興、過疎化対策・・・の掛け声とは裏腹に、人口減少・高齢化はやまず、交付金で建てた大型ハコモノ施設の 維持が町の財政にのしかかっている。2011年の福島第1原発事故を経て、原発建設審査は厳しくなり、 追加で求められている海上での地質調査も反対派住民の抵抗で進捗しておらず、 原発建設計画は中断した状態となっている。2013年以降、国の交付金は毎年8千万円を下回り、 新たな金蔓として浮上したのが原発で使用済みとなった核燃料の中間貯蔵施設の建設という。 原子力村の入れ智恵であろうか、町から中国電力に施設を打診したと報じられている。
 わが国では原発でウランを燃やしたあとの使用済核燃料を再処理して原発に再利用する核燃料サイクルを 国策としてきた。再処理で取り出せるプルトニウムは「国産エネルギー資源」という位置付けである。 しかし、青森県六ケ所村の再処理工場は予算と年限を大幅に超過しても完成が見通せず、 フランスで再処理してもらったプルトニウムをウランと混ぜたMOX燃料を限られた原発で使用しているだけで、 核兵器原料のプルトニウムをため込んだ国として世界中から厳しい目で見られている。そのそも、 核燃料サイクルは米国でも行われておらず、技術的にも経済的にも無理であろう。
 さらに、再処理工場への搬入が止まっているため、使用済み核燃料は各地の原発敷地内で溜まる一方となっている。 貯蔵施設がすでに75%ほど埋まっている関西電力は、原発再稼働の条件として、年内に使用済み核燃料を県外に 搬出することを福井県に約束させられている。取り敢えずはフランスの再処理工場へほんの一部を 送り出すことにしたが、青森県のむつ市のリサイクル燃料貯蔵(株)[RFSCO]の中間貯蔵施設の利用は拒否されており、 新たな施設建設が喫緊の課題であった。そこへ中国電力と共同で上関に建設準備を行うという秘策が浮上したようである。
 RFSCOの資料によると、むつ市の中間貯蔵施設は東電と日本原電の使用済み核燃料を貯蔵するための施設で、 2023年末に3千トン規模の貯蔵建屋を1棟完成させ注2)、その後2棟目を建設し、 5千トンの貯蔵量とすることになっている。核燃料サイクルの構想では、各地の原発で使用した核燃料は敷地内で 何年か水冷を継続して保存し、その後、十分冷めてから空冷式のキャスクに収めてフランスあるいは 六ヶ所村の再処理工場に運びこむことになっていた。しかし、フランスで再処理してもらえるのはわずかであり、 六ヶ所村の工場の完成メドはたたない。原発敷地内での貯蔵容量が一杯となると原発運転は停止となるので、 これを避けるため、RFSCOを創設し、中間貯蔵施設を建設している。RFSCOの建屋およびキャスク(貯蔵容器)の 使用期間は最長50年としており、その間に再処理工場へ搬出することを前提として設計されている。 なお、RFSCOの3000トン所蔵の建屋1棟は図1に示すように、 幅62m、奥行き131m、高さは28mで原子力規制庁の許認可と国際的な査察の対象(何しろ、プルトニウムを含むので) となっている。なお、キャスクは高さ5.4m、直径2.5mで、ひとつのキャスクには10トンの使用済み核燃料が入り、 中間貯蔵施設では空冷で保管することになっている。

 同じような3000トンの貯蔵施設を上関町長島の中国電力が確保している土地に建てるとすると、 管理棟などを別としても1棟あたり外構を含めて200m×100mは必要であろう。そこで、国土地理院の地図上で 200m×100mを四角で示したのが図2である。比較的なだらかな標高100m前後の所を 選んだが、それでも平均傾斜が20°を越える。この四角には山を切った法面や埋め立ての擁壁部分は含まれない。
 上関町長島のこの付近の表層地質は領家変成岩の縞状片麻岩帯であるが、泥質と珪質の境界(古い断層)が横切っている。 長島周辺には多数の古い断層や活断層があり、予想されている南海大地震では断層が動くことだけでなく、 斜面の崩落の危険性もある。地震だけでなく、近年は異常気象で想定外の豪雨も多発している。 上関町の防災ハザードマップでは隣接する同じ地質の四代地区は地滑りや崩壊の危険性が明記されている。 決して適地というわけにはいかない。
 この計画が明らかにされた直後の中国電力社長の記者会見では、中国電力は使用済み核燃料の貯蔵は 島根原発の区域内で事足りており、共同で建設するという関西電力が専ら中間貯蔵施設として使用するのだという。 たしかに、わざわざ松江から上関に5千トンの専用船で搬送・陸揚げし、さらに管理員を常駐させるのでは コスト的に上策ではないだろう。電力販売カルテル問題では、関西電力は抜き掛けで公取委に申告して課徴金を免れ、 もう一方の中国電力だけが独禁法違反の課徴金としては史上最高額を通告されている。 こうした関係の関西電力に中国電力が何故の恩義をうるのかと詮索されているが、真相は不明である。 上関原発計画が進まない中で、関西電力が施設を作り、使用料を払ってくれれば、上関町に対する原発マネーの 交付と合わせて、中国電力の腹を痛めずに三方良しということなのか?将来的には中国電力の使用する余地を残して。
 最後に、原発マネーの理不尽さについて触れておきたい。中間貯蔵施設建設の調査が開始されると地元自治体には 毎年1.4億円が交付され、知事の同意が得られてからは毎年9.8億円が交付となるという。調査段階から原発マネーが 交付され、建設に向けて計画が進むにつれて金額が増える仕組みは、核廃棄物最終処分場立地問題でもそうである。 町長の専決でいったん交付金を手にすると、反対者があってもその意見を閉め出し、交付金で賛成論者を潤す。 その結果、建設まで持ち込めば成功と評価するのだろう。立地条件が不適当であることがわかっていても調査中は金が出て、 別の誘致が起こるの呼び水とすることも出来よう。原資は電気代に含めて国民に負担させるので、 国も電力会社も痛くも痒くもない。上関原発誘致でも、一番に不利益を被る祝島漁民の声を押さえ込み、 議会で多数派ということで、住民投票もしない。地元商工会や建設業界の利益を代弁するような地方自治は、 本当の民主主義とはかけ離れている。原発マネーは「分断・差別・支配」のさいたるものといえよう。

注1:中国電力は8月21日にボーリング調査のために森林伐採届を上関町に提出していたが、 期限切れの11月19日になっても伐採に着手していない。
 ボーリングは2024年4月に着手された。一部の報道は、原発計画地に隣接する東側を貯蔵施設 候補地とした地図を示している。したがって、図2のよりは西側。
注2:RFSCOの中間貯蔵施設の稼働時期は現在では2024年度にずれ込んでいる。
 RFSCOには2024年9月26日に東電柏崎刈羽原子力発電所から使用済燃料を収納した金属キャスク1基が 搬入され、その後、国による検査確認を経て、11月6日付で事業開始となっている。

付記:脱稿の直後、関西電力は原発敷地内に中間貯蔵施設を建てる計画を福井県に示し、 10月13日に福井県知事は同意したと報じられている。関西電力と中国電力の共同による上関町での 中間貯蔵施設計画との関係は曖昧にされている。いずれにせよ、関西電力の原発の稼働を続けること 条件として福井県がのんでくれればどちらでも良いのだろう。使用済核燃料を県内に留めておく方が 核燃料税を確保できると福井県が態度を軟化させたとも勘ぐれる。げに原発マネーは恐ろしいものである。 核依存からの脱却を明確にした電源3法の改正こそが必要である。

 2023年10月 つうしん編集部

 


使用済核燃料貯蔵施設およびキャスクについて
つうしん No.206, 2025/2/20
 2023年8月に表に出た中国電力による上関町での使用済核燃料中間貯蔵施設の計画については、支部ニュース 「つうしん 第202号」で解説している。そして同年12月の支部定期大会では 「上関町に予定されている核燃料中間貯蔵施設の建設に反対する」をあげている。
1年間の経緯

 まず、その後の経緯を簡単に振り返る;
2024年4月~ 中国電力はボーリングによる地質調査を実施(11月に掘進作業完了)
現在は地中から採取したボーリングの試料の分析作業を実施中
2024年7月~ 中国電力は施設を設置する場所周辺の地層の分布や地質構造等を把握するための地表地質踏査を実施
2024年12月 経済産業省は17日に「エネルギー基本計画」素案を発表。原発の建て替えを推進し、 原発の最大限使用することで、原発依存度が23年度8.5%を40年度に約20%とする(2月18日閣議決定)
2024年12月 上関町周辺1市3町の首長が24日に協議し、国に「本当に中間貯蔵なのか」説明を求めるという認識で一致
2025年1月 中国電力社長は年始あいさつで10日に山口県知事と面談後、記者団に「中間貯蔵施設と最終処分場は全く異なる」と語る


 乾式で使用済核燃料を保存するするキャスクは東電福島原発や原電東海第2発電所などの原発敷地内での中間貯蔵施設、 および青森県に東電と原電が建設したリサイクル燃料備蓄センターに設置の実績がある。 このようなキャスクおよび中間貯蔵施設の「安全性」を考えるうえで、ネットで検索できる文献としては、 次のものが重要であろう。
1)リサイクル燃料貯蔵株式会社の公開資料
https://www.rfsco.co.jp/ssl/disclosure/koukaisiryou/index.html
2)日本原子力文化財団のキャスクの説明 https://www.ene100.jp/commentary/2266
からリンクが張られている東京電力プレスリリース資料「使用済燃料乾式キャスク仮保管設備」
https://www.tepco.co.jp/cc/press/betu12_j/images/120704j0204.pdf

  

文献2)の東電のキャスク保管設備について

 はじめに、2)の東電の296ページにおよぶpdf資料(ファイル名からは2012年7月)から、気になったことを紹介しよう。
 東電によると、福島第1原発敷地内のキャスク保管建屋は津波で1階天井付近まで冠水し、9基のキャスクは 健全性が保たれていると判断されるが、監視設備をはじめ様々な設備が使えなくなっている。そこで、 構内高台におくキャスク仮保管設備に搬出するにあたって、キャスクの安全評価を再度行った。
・キャスク本体には冠水時のゴミの付着や汚れの他に、擦り傷が確認されたが、 地震による変形等の構造に影響を及ぼすような異常はみられなかった。
・気温14℃でキャスク表面温度は、25.0~30.0℃。約100℃に設定の警報温度には達していない。
・胴部の表面線量率は2.0~4.0μSv/h程度、また表面から1m位置での線量率が2.5~4.5μSv/h程度で 設計基準の表面線量率2mSv/h以下、表面から1mの点の線量率100μSv/h以下を十分満たしている。
(注:自然放射能レベルの年間2~3mSvは1時間あたり0.2~0.3μSv/h)
・密封機能は二次蓋フランジ隙間部に海水が浸入した形跡があるが、一次蓋の金属ガスケットにより 内部の負圧(0.8気圧)は保たれているであろう。
・キャスクを原発の共用プールに移動し、二次蓋金属ガスケット交換と破損した密封監視装置の圧力センサーの 復旧を行う。その際に、容器内のクリプトンガスの有無を調査し、使用済燃料の健全性を確認することになっている。
 このような記述に続いて、Pdfファイルにはキャスクの除熱機能、密封機能、遮へい機能、臨界防止機能、 構造強度、内部圧・表面温度・放射線モニターなどの管理運用、火災防護、落下や相互衝突防止対策、などの項目で 技術評価などがされている。その際、キャスクの設計・製造を担った東芝の解析モデルとコードを使用しており、 そこまで遡っての妥当性はわからない。ここではキャスタ部材の設計基準についていくつかの点を引用するにとどめる。

・2種類の燃料被覆管の設計基準温度は200℃もしくは300℃
・貯蔵容器本体の低合金鋼の設計温度は350℃、金属ガスケットと中性子遮へい材は150℃
・収納される使用済核燃料の発熱量をもとに計算した結果、燃料被覆管は160℃以下、本体は102℃、 中性子遮へい材は92℃、ガスケットは75℃などで、設計基準温度以下となった
・ガスケットからの気密漏えい率は1×10-6Pa・m3/sと計算
・γ線と中性子線の漏洩線量率の計算値は容器表面で1000μSv/h、表面から1mで80μSv/hとなり それぞれの設計基準値2000μSv/h、100μSv/h以内となった。敷地境界220m地点ではキャスタあたり 7μSv/年で国の基準をクリア
・臨界解析によると中性子の実効増倍率は0.83となり、設計基準値0.95以内(1.0になったら臨界)
・キャスク本体、保持台などの強度、および耐震安全解析は詳細に記載
・キャスクには表面温度検出器1個と蓋間圧力検出器2個をつけ、常時監視
・建屋周辺に放射線モニタリングポストを置き、放射線量を監視
・異常事象の原因としては、機器の破損・故障・誤動作の内部事象と地震、火災・爆発、外部電源喪失、 地震以外の自然災害を想定。クレーン吊り下げ状態から基礎コンクリートとの衝突も解析

 原子炉運転中は臨界状態が保持されるように中性子量はコントロールされている。使用済核燃料を冷却プールで 10年以上にわたり冷却後に空冷式のキャスクに密閉するのであるが、核燃料棒はキャスクの中でバスケット仕切り板 (中性子を吸収するボロン10Bを添加したアルミニウム)で仕切り、かつ容器本体の内装として中性子遮へい材を巻いて、 長年にわたり臨界(核分裂の連鎖反応)を防止しなければならないということが分かる。 万一、キャスク内で臨界に達すればキャスクは破壊され、深刻な放射能汚染を引き起こすからである。 バスケットが振動や取り付け不具合で離脱することは許されないことだいえる。
 また、経年劣化や、自然災害によるキャスクの転倒などの衝撃にともなう安全機能の喪失が懸念される。とくに、 密封機能を保つガスケットは気温、気圧、地震動などの影響で耐用年数が損なわれないだろうか。

文献1のリサイクル燃料貯蔵センターについて

 つぎに、東京電力と日本原子力発電の共同出資で青森県むつ市に設立されたリサイクル燃料貯蔵センターは 両者の使用済核燃料の中間貯蔵施設として2024年秋からキャスクの搬入が始まっている。 資料1)のページに、地元との安全協定、トラブル事例集、防災業務計画、損害賠償実施方針、廃止措置実施方針について、 9編のpdfが載っている。これらを詳細にみれば、逆にどのようなリスクが想定されているかがわかるという代物である。 以下、「安全確保の取り組み」から、トラブル事例について紹介しよう。
 トラブル事象は 1) 機器動作不良 2) 計測・制御系の不良 3) 電源系の異常 4) 汚染 5) 破損 6) 火災等  7) その他 に分類されている。国内外でのトラブル例も記載されている。いずれの項目も、事象の概要、影響、対応が 記載されているが、キャスクの安全性は損なわれないという前提にたっているようだ。 一番復旧作業に手間取るのは、一次蓋金属ガスケットからの漏洩であり、三次蓋を取り付けて搬出元の原子力発電所に 送り返しての作業となる。想定外の発熱や中性子漏えいの増加などにはキャスクの一次蓋の内部を調べたり、 修理することが必要で、これらも搬出元へ送り返す以外に現地ではどうしようもない。 長々とトラブル事象と対応を書き、安全性に影響がないとしているが、1番肝心な一次蓋の内部にかかわることは 一次蓋金属ガスケット漏えいに関する1行「搬出元の発電所に移動」だけである。
 ともあれ、地元との安全協定や50年後の廃止についての実施方針まで明示している。これらを地元が了解することが センター稼働の条件であったものと推察される。

疑問・疑念:まとめにかえて
 2つの資料に目を通して、再確認したこと

・臨界防止機能が設計通り働かないといけないこと
 ボロン10Bを添加したアルミニウム製の仕切り板、バスケットで核燃料棒は仕切られて、キャスク内部の 中性子密度が抑えられる。このボロンは中性子を(n,α)反応でα粒子、すなわちエネルギーを失えば無害なヘリウムの 原子核に変える;10B+n→4He+7Li。 使用済み核燃料棒内に存在する超ウラン元素の自発核分裂による中性子や、放射性物質の崩壊によるα、β、γ線の 照射を受けたボロンを含む仕切り板は劣化する。そのため長年にわたっては臨界を防止できない恐れがある。 これは何年後なのか資料ではわからない。少なくともキャスクの設計寿命の50年よりは長いと信ずるしかない。 子炉の中では制御棒にボロンが入っているが、これが消耗してくれば制御に支障が出てくる。 原発は13か月ごとに定期点検があるから、その際に制御棒の性能もチェックし、交換もできる。しかし、 キャスクはそうはいかない。いったん蓋をされると再処理工場に運ばれるまではバスケットの健全性はチェックできない。 キャスクの設計寿命50年を越えて、核燃料をそのまま収納し続けることはキャスクの安全評価をし直さないと 許されないことになる。

・キャスクの蓋の金属ガスケットは緩んだり、腐食してはいけないこと
 キャスクの蓋は2重構造になっていて、一次蓋の内側はヘリウムガスが0.8気圧、一次蓋と二次蓋の間隙には ヘリウムガスが4気圧に加圧して充填されている。この間隙の圧力を圧力センサーで監視し、一次側からの 漏洩がないことを確認している。
 ところで、一次側では核反応で発生したα線が不活性ガスのヘリウムになるほか、放射性の希ガスも発生する。 この放射性ガスが漏れないように、一次側は大気圧から減圧されているので、一次蓋のガスケットが 放射性物質の閉じ込めに肝要である。
 しかし、何十年間にはわずかながらガスケットからのリークがあるので、キャスク表面の放射線量の変動が 監視対象となっている。わずかなリークは問題外として、キャスクへの温度や大気圧の急激な変動、地震動などが ガスケットの緩みを引き起こさないという保証はないだろう。二次蓋側のガスケットは現地で交換可能だが、 一次蓋側はキャスクの最初に封入した原発の冷却プールまで持って帰らなければならない。
 そのためもあってか、各地の原発では原発敷地内に中間貯蔵施設を設置、あるいは計画している。 中国電力も島根原発内に中間貯蔵施設を建設する計画を持っている。リサイクル燃料貯蔵株式会社の青森県むつ市の リサイクル燃料備蓄センターが例外ではあるが、青森県六ケ所村に再処理工場が建設中、又むつ市に隣接する 東通村に東電は原発を建設中(3.11以降中断)であり、万一の時に放射性物質の管理に知見・技術を有する人材は すぐに対応できるであろう。これに対して原発がない上関に貯蔵施設をつくり遠方から運び入れる・運び出すというのは 技術的、経済的にいかにも無理筋ではなかろうか。

・合理性への疑念:
 12月に公表された「エネルギー基本計画」の経産省の素案では、原発回帰の姿勢を打ち出し、具体的には既存の 原発敷地内での建て替え(リプレース)と称する新設は認めるという。これは上関原発には該当しない。 仮に将来に上関原発建設がスタートしても、上関でキャスク保存が必要となるときには、中間貯蔵施設の 設計基準年限の50年を迎えて、設備更新や再審査を求められるだろう。島根や福井と遠く離れた上関に当面は必要がない 貯蔵施設を建てるとは、まったく無駄な投資とは言えないか?
 近い将来、必ず起こる東南海地震で上関にも地震や津波が大きな被害を与え、電源系や、計測・制御系の システムが破壊されてしまう危険性がある。原発・技術関係者がしっかり配置されていない状態で、 大きな災害に見舞われたとき、どこまで機動的に上関で対処できるかが大変憂慮される。 上関に使用済み核燃料「中間」貯蔵施設を設置することは、直ちに断念すべきである。(編集部)

 

<ミニ知識>
 電気事業連のデータベース https://www.fepc.or.jp/pr/data/infobase/ および上述の文献2)によると、 燃料棒を交換する2~3年間で燃料棒中の組成は図のようになっている。
 ウラン235やプルトニウム239は中性子を吸収して核分裂反応を起こす。また使用済燃料棒に含まれる 超ウラン元素の中には、プルトニウム240やキュリウム244など自発核分裂をして自ら中性子を発生するものがある。
 核燃料は2~3年間原子炉で燃やした後、10~15年以上、使用済燃料プール内で寿命の短い核種の壊変熱を冷まして、 空冷に耐えられるほどになってから、キャスクに詰めて貯蔵施設に移す。 原発にはこの冷却プールと貯蔵施設は必ず付設している。核燃料サイクルを掲げるわが国では再処理をする というのが建前であるので、キャスクに詰めても廃棄出来ない。再処理工場稼働のめどがたたない中、 置き場が満杯に近づいており、貯蔵施設の増設や、原発敷地外にも中間貯蔵施設を建設しようとしている。
 キャスク内で臨界に達したら、急激な温度上昇と圧力増加でキャスクが破壊もしくは蓋の気密が破れ、 放射性物質による原子力災害が起こる。臨界に達しないまでも核分裂が進行したら半減期が9時間と短い キセノン135が検出されるであろう。キャスクの内部の放射性ガスセンサーはついていないので、 一次蓋のガスケットの気密性が破れて、初めて気づくことになろう。
 ともあれ、キャスクは放熱が設計通りにいくことと、バスケットが中性子を十分に吸収し、自発核分裂や 再臨界に至らないことが肝要である。そういうことは想定外といわれるが、想定外でも起こらないことが 起こったのが福島第1の事故だということを忘れるわけにはいかない。