共同声明
2014/6/18

教授会権限剥奪・学長権限強化により、大学の自治・学問の自由に危機をもたらす
「学校教育法・国立大学法人法改正案」の廃案を求める共同声明

 政府・文部科学省が4月25日に国会へ上程した「学校教育法及び国立大学法人法の一部改正案」は、 大学関係者・教職員組合等の強い反対と危惧の声が強まっているにも関わらず6月10日の衆議院本会 議で可決されました。
 政府・文部科学省は、審議の中で明らかとなった法案の問題点・欠陥を無視できなくなり、与党自民 党と民主・維新・みんなの4党による「修正案」を受け入れ、また「学校教育法施行規則」の中で「教 育課程の編成、教員の教育研究業績の審査」を教授会の審議事項として明示することに合意し、さらに は「附帯決議」で「学問の自由・大学自治の理念を踏まえる」「高等教育への財政支出拡大」とする等、 一定の譲歩を余儀なくされました。
 これらは、全大教(全国大学高専教職員組合)・私大教連(私立大学教職員組合連合)をはじめとす る大学関係者の声を背景とした国会論戦の結果と言えます。しかし、これらの「一部修正・施行規則で の審議事項指定・附帯決議」を行わざるを得なかったこと自体が、この法案の持つ危険性を改めて証明 したものと言えます。
 さらに、これらの一部修正等によっても、戦前の帝国大学においては学内規則で規定され、戦後は70 年近くにわたって法的に保障されてきた教授会の人事権、また、教育研究に関する重要事項を教授会で 審議・決定するという大学自治の根幹に関わることが大きく制限されることになるという、法案の持つ 本質はなんら変わっていません。またこの結果として、学長権限のさらなる強化、企業経営者等学外者 の大学運営へのいっそうの関与が進み、大学の「国と産業界が求める人材育成機関化」への変質が進行 していくであろうことは想像に難くありません。
 2004年の国立大学法人化以後、「国立大学運営費交付金」は毎年のように削減され続け、教員一人一 人に保障することで学生に還元される基本的な教育研究経費は激減しています。公立大学の「運営費交 付金」も同様となっています。すでに「評価・競争」の中で、本来の研究基盤を確保することが困難な 状態が全学問分野に広がっており、多くの教員は予算獲得あるいは短期的な「成果」をあげて「評価」 をクリアするという「競争的環境」のもとにおかれ、「学問の自由」は危うくなっています。  学生もまた、今や教育ローンと化した「奨学金」と、学業に支障をきたすほどのアルバイトに頼らざ るを得ない姿が普通のこととなり、国立大学の授業料はいまや私立大学に限りなく近づく等「教育の機 会均等」は崩壊しつつあります。
 こうした大学の危機をさらに加速させる「学校教育法・国立大学法人法一部改正」に反対して、ノー ベル物理学賞受賞の益川英敏氏(名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構長)をはじめ全国でおよそ7千名 がアピール署名に賛同し、反対の声はさらに日々広がりつつあります。「国」に求められるのは、こう した大学人自身の声を真摯に受け止めて法案を撤回し、OECD(経済協力開発機構)加盟諸国と遜色の ない財政支出を行うことを基本に大学が大学人自らの判断と力で本来の役割を果たせるように条件整 備を進め、形骸化しつつある大学の自治を本来の姿に再生させることです。今回の法案のように教授会 権限縮小・学長権限拡大で大学をさらに疲弊させることがあってはなりません。
 急ぐべきはこの法案の成立ではなく、大学・高等教育機関への国の財政支援及び学生への経済支援を 抜本的に拡充し、それぞれの大学の主体的・自主的判断で「大学改革」を進めることができるようにす ることです。これこそが、日本が真に国際的にも通用する創造的・高度な研究成果を得る方策であり、 同時に学生・国民の知的水準の向上に寄与する大学づくりを可能とする道筋と言えましょう。
 両法案はすでに参議院での審議に移行していますが、6月22日の今国会会期末までの国会審議の中 で、この法案の持つ重大な問題点・欠陥をさらに明らかにした上で、参議院が「良識の府」としての見 識を示し廃案とすることを強く求めます。
                   2014年(平成26年)6月18日
          山口大学教職員組合   執行委員長 鴨崎 義春
          下関市立大学教員組合  執行委員長 相原 信彦
          日本科学者会議山口支部 代表幹事  増山 博行

トップにもどる      もどる