緊急問題提起
2017/5/13

山口大学は「安全保障技術研究」を推進する立場なのか

 5月9日に開催された山口大学教育研究評議会において、「防衛省等との研究協力に関するガイドライン」が 定められたと11日付で学内に通達された。 ガイドラインは「基礎研究であり、かつ、明確に軍事目的(防衛目的を含む。)ではないということが判断されるもののみを受け入れる」として、申請者に8つの内容確認のチェックを求めている。 しかし、日本学術会議が軍事研究について真摯な警告を発したのとは異なり、山口大学では学内申請を19日に締め切り、「審査」を経て5月31日の「安全保障技術推進制度」応募締め切りに間に合わせるという、 まさにアリバイ的な手続きを合理化するためのガイドラインではないかという声が出ている。
 山口大学のガイドラインは防衛省等との研究協力一般に関するものであるが、ガイドラインに添えられた研究内容の確認項目を焦眉の安全保障技術研究推進制度に限ってみると、矛盾をはらんだ内容となっている。
 大学側は許されるのは基礎的研究であり、その定義は「自然現象又は実測された事実のより良い知識や理解を得るための系統的な基礎的研究で,研究成果の軍事用途は直接的に想定されない。」としている。 しかし、防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度公募要項1)では募集している「基礎研究」とはそのような定義ではないと明記したうえで、 「将来の応用における重要課題を構想し、根源に遡って解決法を探索する革新的な研究であり、技術指向型の基礎研究」、つまり防衛技術に応用可能な「軍事研究」に関するものとして30のテーマ2)をあげ、この課題に大学が参画することを求めている。 すなわち大学の研究者を軍事研究のラインに組み入れることを目論んでいると批判されるゆえんである。
 こういう事態が進むと、大学の変質が進む虞があるが故に、日本学術会議は3月24日に軍事的安全保障研究に関する声明3)を出している。 この声明で求めている「ガイドライン」と山口大学のものとは似て非なるものであることは日本学術会議の声明を読めば明らかである。
 そもそも山口大学は山口大学憲章4)では、「W 私たちの責務」として
2 社会が抱える問題解決への寄与
私たち山口大学は、20世紀の時代が繁栄と豊かさをもたらす一方で、自然環境の破壊や貧困・飢餓・戦争など、多くの社会問題が表出した時代であったことを認識し、21世紀の今日にあっては、これらの矛盾の解決のために英知と勇気を役立てます。
3 地域社会の発展と国際社会への貢献
私たち山口大学は、心豊かな教養人と優れた専門的知識・技術を持った人材を育み、地域社会の発展と国際社会の平和に貢献し、人類の幸福に寄与します。
と謳っている(下線は引用者)。この立場に立つならば、形式的な山口大学のガイドラインへ適合するという形式的判断でもって安全保障技術研究推進制度にのることは許されるであろうか。
 今回のガイドライン案の作成や、審査委員会については大学の多くの人々の目には触れない非公開の場で進んでいる印象を受ける 少なくとも、意見が分かれる安全保障技術研究を倫理的検討もなく、形式的な8項目へのチェックでゴーサインを出すことはあまりにも拙速である。学長はガイドラインおよびこれに基づく審査を凍結し、日本学術会議の声明の趣旨で再検討を提案すべきではなかろうか。

2017年5月13日
日本科学者会議山口支部幹事会

トップにもどる      もどる