幹事会声明

学問の自由と大学自治への脅威
− 下関市立大学の定款改悪を糾す −

 昨年6月以来、公立大学法人下関市立大学の大多数の教員が学問の自由・大学の自治が危機的な状態であると訴えている。 下関市立大学の設立団体である下関市の市長が法人の理事長に対して専攻科と特別の課程の設置、そして その担当教員3名の採用を働きかけたことを発端としている。理事長は直後に学内説明会を行い、 学長は教育研究審議会に諮ろうとしたがこれに反対の教授らが納得せず、会議は流会した。 ところが翌日の6月26日に理事長は経営審議会に諮り、新組織設置の承認を取り付けたとして、 27日に市長から推薦のあった3名の教員に採用内定通知を出している。その後、7月25日に教育研究審議会が開かれ 、経済学部教授会(単科大学であるので、唯一の教授会)からの異議が申し立てられたが、継続審議とされたまま、 異論を封じる形で経過することになった。
 公立大学法人については2003年に制定の地方独立行政法人法の第7章において規定されており、第69条では 大学における教育研究の特性に常に配慮することを設立団体に求めている。理事長は設立団体の長が任命するが、 理事長と別に学長を置く場合は国立大学法人のように、経営審議機関と教育研究審議機関から選出された委員で 構成する選考機関の議に基づき、理事長が学長を任命する(第71条)となっており、設立団体の長(市長)や 理事長の直接的介入を避けている。第73条では副学長、学部長等および大学教員の任命・免職・降任は 学長の申出に基づき理事長が行うものとなっている。そして第77条では「定款」の定めるところにより審議機関を置くとしており、 学長、学部長その他の者から構成される教育研究審議機関は教育研究に関する重要事項を審議することが定められている。
 こうした法律の規定を踏まえ、下関市立大学の定款(2006年制定、2018年改正)では第23条で教育研究審議会の 審議事項を9項目(国立大学法人法の教育研究評議会の審議事項と逐一対応している)にわたって列挙している。 それらは次の事項を含む。
 (3) 重要な規定の制定及び改廃に関する事項のうち、教育研究に関する事項
 (4) 教員の人事に関する事項
 (5) 教育課程の編成に係る方針に関する事項
これらの審議事項および経営審議会の審議事項は、山口県立大学や山陽小野田市立山口東京理科大学の定款と横並びである。 なお、定款第18条第2項では、経営審議会が大学、学部、学科その他の重要な組織の設置又は廃止に関する事項を審議するときは、 あらかじめ、教育研究審議会の意見を聴き、当該意見に配慮するものとする、と明記している。
 理事会の規定がない下関市立大学における定款の第9条には、理事長は経営審議会および教育研究審議会の議を経ることが 明記されている。従って、学長が教育研究審議会の議を経ずに教員の任用を理事長に申し出ることはあってはならない。 また、教育研究組織である専攻科や特別の課程には規則の制定が伴うにもかかわらず教育研究審議会にかけない、 などのことは定款及び学内規則に則していない。このように下関市立大学の理事長および学長が教育研究審議会で 審議を経ずに新教育組織・課程の設置計画を推進したことは学内規則に反していると言えるだろう。 とりわけ教員の採用人事を学内規則によらず理事長の介入で行ったことは、例えば市職員採用に市長が 口を出せないことと同様にあってはならないことであった。
 実際、2019年8月に大学当局は専攻科と特別の課程の設置に関して文部科学省に事前伺いをかけたようだが、 文部科学省からは「学内規定に沿った適切な手続きの必要性」が指摘されたと伝えられている。
 ところが、大学当局はそうした誤りを正すどころか、誤ったやり方を正当化する規則改正に打って出た。 すなわち下関市は定款の改正案を9月2日の定例市議会に上程し、26日に可決されると、県知事に定款変更を申し出て、 施行を2020年4月1日として、11月22日付で認可された。
 この新定款は次のように驚くべき内容となっている。
1)教育研究審議会の審議事項から
  (3)重要な規程の制定及び改廃に関する事項のうち、教育研究に関する事項
  (4)教員の人事に関する事項
 の2項目を削除
2)経営審議会の審議事項からも
  (3) 重要な規程の制定及び改廃に関する事項のうち、法人の経営に関する事項
 を削除
3)代わりに、役員会を新設し、その下に諮問機関として
   (1)法規委員会
   (2)教員人事評価委員会
   (3)教員懲戒委員会
等を置き、理事会の「専属的議決事項」とする。
 これらの定款の変更に伴い、当然ながら大学の重要な規定の制定及び改廃が必要となる。したがって、 下関市が定款の改訂を行うにあたって、学校教育法並びに地方独立行政法人法の趣旨を踏まえるならば、 経営審議会および教育研究審議会の意見を聴き、かつ当該意見に配慮すべきであった。 「法に違反するなら法を変え」、事後に決まった法を遡って適用するというようなことは、民主的な法治国家では 決して許されないことである。
 およそ大学における教員・学生の学問の自由は、人類の歩みの中で広く認められるようになった権利である。 大学が社会と断絶して勝手な行為をする、あるいは為政者が私物化するためではなく、まさに学問の自由を担保するために 大学の自治が不可欠であると考えられている。従来、大学の自治の根幹は教授会自治と考えられ、 わが国の学校教育法で教授会の役割が規定されていた。しかし、2014年の学校教育法の「改正」で教授会の役割は決定機関ではなく 審議機関とされ、「学長が教育研究に関する重要な事項について決定を行うに当たり意見を述べること」 および「教育研究に関する事項について審議し、学長の求めに応じ、意見を述べることが出来る」と限定された。
 そうであっても、何を重要事項とするのか、何に関して学長は意見を求めるのかは、各大学の自治の範囲に委ねられている。 ただし、国立大学法人法および地方独立行政法人法の公立大学法人に関する条文で、国公立大学の管理運営の骨格は規定され、 また理念がこめられている。
 新設の下関市立大学理事会ならびに下関市議会はこのことを謙虚に鑑み、学問の自由を保障する大学の自治を 発揮できるような運営につとめ、かつ理不尽な定款や学内規則の再改訂を行うべきと考える。 我々は困難な中で学問の自由と真の意味の大学の自治のために奮闘している下関市立大学の教職員に敬意をこめて、 ここに意見を表明する。

2020年3月31日
日本科学者会議山口支部幹事会

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