幹事会声明

専守防衛から敵基地攻撃への安保政策の大転換に反対する

 自民・公明両党は、2022年12月2日、これまでの専守防衛から「敵基地攻撃能力(反撃能力)」保有へと、 戦後安保政策の大転換に合意した。防衛費は長らくGDP比1%程度とされてきたが、岸田総理は敵基地攻撃能力のために これを5年間で2%に倍増することを指示した。国会閉会後の12月16日、先の合意内容を反映した「国家安全保障戦略」、 「国家防衛戦略」、「防衛力整備計画」の、いわゆる安保3文書が閣議決定されたが、これは憲法の平和主義を 根底から覆して大軍拡に舵を切るものであり、内閣の一存で決められるようなものではない。
 わが国は、第二次世界大戦の厳しい反省のうえに、憲法前文で平和的生存権を保障し、第9条第1項で 「国権の発動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と 「戦争放棄」を定め、同第2項で「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。 国の交戦権は、これを認めない」と「戦力の不保持」と「交戦権の否認」を規定している。これらの規定は、 国民の基本的人権を保障するために憲法によって国家権力を抑制するという立憲主義に則って平和を実現しようと するものであり、国際法における戦争違法化の潮流の中に位置づけられる。政府は、自衛隊の創設により 、9条2項の「戦力」に「自衛のための必要最小限度の実力」は当たらないとの解釈変更をしたが、その「自衛」は 長らく個別的自衛権の枠内に踏みとどまってきた。
 こうした戦後の平和政策に重大な解釈変更を企てたのが、安倍内閣による2014年の閣議決定、そして2015年の 安保法制の制定である。集団的自衛権の行使容認に踏み切り、自衛隊の活動に関する地理的・時間的制約をなくして 外国軍隊と共同歩調をとることを可能とした。しかしながら、その時点では、敵基地攻撃を目的とする装備体系を 自衛隊は保持しておらず、集団的自衛権の行使として敵基地を攻撃することは想定していないとされていた。
 政府は、2014年に、兵器輸出を原則禁止とした「武器輸出三原則」を撤廃し、それに替わる「防衛装備移転三原則」 によって輸出の要件を緩和したが、今回の閣議決定では、後者の運用指針を見直してさらに要件を緩和し、 官民一体となって「防衛装備移転」を進めようという。これは、まさに軍拡への動きに他ならない。
 今回の安保政策の大転換には、ロシア、中国、北朝鮮の振る舞いが理由としてあげられている。しかし、 軍事的本質は、アメリカの軍事戦略の転換により、わが国をアメリカ防衛の前線基地とし、あるいは アジア太平洋地域での軍事行動に自衛隊を組み入れたいという思惑であることは明らかである。射程1,000kmを 超えるトマホークの導入が「反撃能力」のために必要と称しているが、米軍が提供する軍事情報なしに 自衛隊単独の能力で1,000km先の「敵基地」を把握し、攻撃は出来ない。「敵」の攻撃準備を察知して攻撃することは ほとんど不可能である。そもそも、「反撃」能力というが、その内容は、実際に攻撃を受けていなくても、 相手国がミサイル発射準備に「着手」したと判断した段階で攻撃することも想定している。そうなれば、 自衛隊が国際法違反の先制攻撃をした、あるいは準備しているとして、逆に戦禍を招き入れるだけであろう。
 国会で審議することなく、政府が独善的に安保政策の転換を図ることは許されない。GDP比2%への軍事費拡大も 認められない。憲法論議もせずにわが国の平和主義をうち捨て、憲法破壊をすることも許されない。
 我々は、安保法制を廃止し、立憲民主主義を守ることを求める。また、平和を守るためには、対立する一方との 軍事同盟や集団的自衛権に頼り軍備増強をするのではなく、国連憲章の平和維持の考えを実効的なものとするよう、 平和憲法の立場から広範な国と連帯していくことであると考える。

2022年12月12日
日本科学者会議山口支部幹事会

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