ミニ講座 YU学び舎第6講(2017年7月26日) 概要 |
安倍改憲構想の意図するもの:安保県連法制と自衛隊の動きに絡めて |
JSA山口支部「つうしん」No.180より転載 |
山口大学元教授で政治学者の纐纈厚氏を話題提供者として、30名近くの参加者を集めて山口大学理学部のセミナー室で7月26日の夕刻に開催されました。まず、纐纈氏のお話:
今回のテーマが決まった時点では、憲法9条に第3項を付け加え自衛隊を明記するとの、5月3日に打ち出された「安倍改憲構想」が具体的に議論される夏を迎えるという状況であった。日本会議のブレーンに支えられた安倍総理の目論見は、改憲論者が少なくない民進党だけでなく、戦後の護憲運動にまで楔を打ち込み、改憲多数派を形成して、年末総選挙、国会での改正案審議、そして国民投票を展望したものであった。
しかし、7月2日の東京都議会選挙で自民党が大敗し、安倍一強の体制でゴリ押しできる政治環境ではなくなってきている。もともと安倍のやり方には自民党の中には異論があった。加計問題の国会閉会中審議で露呈した総理の失態もあり、今後はポスト安部をにらみつつ、自民党の「改憲草案」(欽定憲法復活)をベースに改憲論の再構築が図られるのではなかろうか。その際、アメリカの軍事時戦略も見ておかねばならない。集団的自衛権を求めたアメリカであるが、「改憲草案」にはオバマ政権は批判的であった。ぐらついているトランプ政権はどういうスタンスなのか?
アップデートな話題は陸上自衛隊の日報隠しの問題である。稲田大臣には失言や資質の問題がある。日報の存在の報告を受けた稲田大臣は聞いていないと発言し秘匿をはかったが、陸自の内部からリークがあった。自衛隊は文民統制されるというが、文民とはcivilianであり民主主義の具現者が判断するということ。しかし「血を流す覚悟がないと日本人ではない」と公言する稲田大臣は思想軍人であり、民主国家の文民統制になじまないことがそもそもの問題である。次の防衛大臣が日報問題にどういう態度で臨むか注視したい。今の事態を一言でいうと、「暴走する陸自、対する稲田、ハラハラ見ている背広組の文官」となるか。これまで米軍有事駐留論を唱えた政治家(鳩山由紀夫、小沢一郎、田中角栄)は追い落とされたことも想起されよう。
北朝鮮の核開発やミサイルが問題視されているが、朝鮮半島の休戦協定に反して60年代にアメリカが核を半島に持ち込み、最近では北に侵攻する想定の米韓合同軍事演習をやっている。イラクやリビアでの政権転覆の事例を見ている北の指導者はこれが怖くてたまらない、核やミサイルに走るというのが現実である。アメリカの軍事戦略の中で我が国は平和戦略を打ち出すことこそが必要である。
時間を超過する、ペーストを交えた熱弁のあと、質疑応答が行われました。
Q: 日報問題で陸自内部からの告発をどう見るのか?
A: 公務員である自衛隊員といえども公益通報権がある。が、背景には陸自が粗末に扱われているという不満がある。陸自による紙のクーデターということができるかもしれない。
Q: 韓国文大統領の北融和政策に対する反応は?
A: 南の若い人の思いは、Is this an alliance? Get lost with your THAAD! (これが同盟関係か、サードを持って失せろ)である。
Q: 自衛隊の制服組と背広組の関係はどうなっているのか?
A: 防衛省設置法の改正で背広組上位から制服組が並列に位置するように変わった。実態は制服組の方が優位に発言することが多くなっている。
Q: アメリカは北をどうしたいのか、また中国はどう考えているのか?
A: アメリカはいずれ南北統一に行くとみている。しかし、アメリカが介入できないような自主統一はダメだというだろう。半島は現在も休戦状態なので、戦時指揮体制が継続しており、米軍人が総指揮権を握っている。南北をアメリカ好みの統一国にするのが目標だろう。統一後は1億近い人口で、地の利もあり、統一後のベトナム以上に経済力を発揮するので、アメリカのコントロールは欠かせないとみている。
中国にとっても朝鮮半島は経済的に強い影響力を発揮したい場である。つまり、ここはeconomic warの戦地ともいえる。朝鮮の人々は東西の大国からの新植民地支配を望んではいない。戦後処理で日本本土が分断される代わりに、大国の思惑で朝鮮半島が分割支配になったという歴史認識を朝鮮の人が持っていることに日本人は無知ではいけない。
予定を15分オーバーしたところで、警備員が部屋のロックに来たこともあり、ミニ講座はお開きになりました。