ミニ講座 YU学び舎第7講(2017年9月28日) 概要
加計学園と獣医学部新設問題 − 動物診療と教育の変遷

 

第7講 (9月28日) 加計学園と獣医学部新設問題 − 動物診療と教育の変遷

 山口大学で長年にわたり動物の医療と獣医師養成に携わってこられた中間實徳さんに,日本における動物診療の歴史,近年の犬・猫の飼育環境の変化とそれにともなう獣医師業務の変化,獣医師養成の現状および加計学園の獣医学部新設問題について話題提供いただきました.概要は以下の通りです.

1. 動物診療の歴史
 第二次大戦中は,移動・運搬手段として軍馬が多数飼育され,獣医師の多くが陸軍獣医将校としてその健康管理にあたっていた.戦後になると,食料増産が国の重要な課題となり,牛や豚などの食用動物(産業動物)の生産が主流となった.そのため,これらの家畜の診療を行う獣医師の需要が高まり,獣医師の多くは都道府県の家畜保健所や全国にある農業共済組合等に就職した.1950年代から日本の高度成長と相まって,犬や猫などの飼育が増えていった.1970年代になると犬や猫の室内飼育が増大し,これらの小動物がコンパニオンアニマル(伴侶動物)として家族の一員になっていった.それにともない,小動物臨床への関心が高まり,犬や猫の病院に就職する獣医師が次第に多くなるとともに,犬や猫の平均寿命も大幅にのびた.そのため,人間の成人病と同じような疾患が増大した.小動物をとりまくこういった環境の変化とともに,動物医療の高度化と専門化が進み,人の医療に用いられるような検査装置が導入されるようになった.最近では犬の血液透析をおこなう個人病院も出現している.

2. 公務員・農業共済組合獣医師の業務と獣医師の偏在
 各都道府県には畜産振興課や家畜保健衛生研究所などの獣医師受け入れ機関がある.また,全国に設置されている農業共済組合には,大動物の臨床を行う獣医師が働いている.これら,産業動物や公衆衛生に携わる獣医師は,多くのところで欠員があり,獣医師を採用しようとしてもなかなか来てくれないという実情がある.しかし,獣医師の全体的な需要は現在の数で足りているとされている.このような獣医師の偏在は,動物病院に勤務する獣医師と公務員・農業共済組合獣医師との大きな給与差とともに,口蹄疫や鳥のインフルエンザ感染症対策などにともなう過酷な業務に起因する.

3. 獣医師の養成と加計学園の獣医学部新設の問題
 現在,日本では16大学(国公立11,私立5)に獣医学部もしくは獣医学科が設置されている.一般に私立大学では国公立大学に比べて,学生定員に対して専任教員の数が少ない.日本の獣医養成課程は,欧米に比べてその規模が小さく,学生に対する専任教員の数も少ない.こういった状況のなかで,安倍内閣は国家戦略特区として,愛媛県今治市に大規模の獣医学部(1学年140人)を設置したい意向を示した.しかし,日本獣医師会を初め全国の獣医大学のほとんどがこれに反対の立場をとっている.獣医師の質の向上のためには,新たな獣医学部の設置ではなく,既存の獣医師養成課程の教員数や設備を欧米並みに充実することが何よりも重要である.


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