ミニ講座 YU学び舎第8講(2017年11月22日) 概要
自衛隊を憲法に明記するという憲法改正案について考える
JSA山口支部「つうしん」No.182より転載

 

はじめに
 ミニ講座「YU学び舎」第8講は、17年11月22日の夕刻、山口大学理学部の教室で開催された。テーマは「自衛隊を憲法に明記するという憲法改正案について考える」であり、弁護士の松田浩子さんからの話題提供をうけ、10数名の参加者による熱心な質疑、意見交換が行われた。
(松田弁護士の話題提供の概要)
 安倍総理は5月3日に民間団体の集会で挨拶し、憲法9条のA項を残したまま、B項を起こして自衛隊を明記するという改憲の方向をのべ、その後の国会論戦では「考え方は読売新聞に載った記事を見てくれ」という態度であった。しかし安倍加憲構想は従来の自民党の改正案とは整合せず、いわゆる改憲論者は必ずしも賛成でもない。
 そもそも、憲法改正には限界がないという人もいるけれども、多数の憲法学者は限界があり、基本的人権、国民主権、平和主義の根幹を変えることは出来ないという限界説である。
 現行憲法の恒久平和主義と立憲主義をめぐっては、絶対平和主義は立憲主義を巡る様々な議論がある。
  ・立憲主義は人権を守り国家権力を制限するためにあり、平和主義は必須なものである
  ・自衛隊の存在は認めて、九条を妥協しても立憲主義を貫くべし
  ・平和維持の武力はやむを得ないとしても、絶対平和主義の立場に立つなら、9条改正はあり得ない
  ・9条は現実の国際情勢に対応できるように変えるべきだ
ここで、日弁連の国防軍に反対の決議「恒久平和主義、基本的人権の意義を確認し、『国防軍』の創設に反対する決議」を紹介する。 URL
 次に自衛隊の実態をみよう。従前は個別的自衛権にとどまっていた。昭和47年の国会での政府答弁では「専守防衛論」としていた。しかし、安保法制以降はこれから逸脱し、集団的自衛権を容認。今年7月の閣議決定では明白な危険があれば外国軍と一体の後方支援や駆けつけ警護、外国軍を防衛するための武器使用を認めるにいたった。そして、6割の憲法学者が自衛隊は違憲という状況では困るので、憲法を変えて、自衛隊を合憲としたい、「日陰者にしては自衛官が可哀想」と。
 一方、憲法9条のA項を残したまま、B項を加憲するのは矛盾だという見解がある。現実に憲法を合わせるのでは憲法の規範力はなくなる。憲法に現実を合わせるべき。抑止力云々・・は双方の軍事力を徒に増強するというジレンマを生ずることに注意。
 自衛隊の存在と任務は区別しなければいけない。任務をはっきりさせずに存在だけを憲法に加えると、軍の独走の虞がでる。自衛隊と言う言葉を憲法に書けば良いというものではない。また、自衛隊に国防の義務を課すということは国民の基本的人権の制約となり得る
。  現にある自衛隊は必要最小限のものとしても、安保法制下の自衛隊はこれを越えた存在となっていないか?「交戦権」は国際法の上で規定された権利である。従来はわが国の領土を侵略する敵を排除することに限定されてきた。これは国際法上の交戦権とは狭い内容である。
 改憲論者はすでに立憲主義に反することをやってきたし、さらにやる虞がある。
 自衛隊の統制について論ずる。ドイツでは詳細に軍に対する統制を定めている。統制が機能するには国民に情報が開示されていなければならない。が、特定機密として情報は公開されない。自衛隊は秘密のベールの中にある。南スーダンの日報問題。5月の海自による第7艦隊の護衛、米のイージス艦への給油すら政府は公表していない。このようにみると、国民による自衛隊の統制はわが国では期待できない。ドイツでも国民にはからずに中東での空爆に参加した。
 憲法9条加憲論に関しては国民が冷静に熟慮できる環境が保証されるであろうか?国民投票法は国民の意思を反映するものとして機能するであろうか?最低投票率の規定はないし、運動資金の潤沢な側が有利という問題がある。そもそも、一票の格差があるもとで選ばれた国会により憲法改正発議は有効かという問題もある。
(質疑・討論
○元自民党員だが、自民党は今や日本会議の代弁者。自衛官の息子であったので、転校先で「人殺しの子ども」と呼ばれて悲しい思いをした。しかし、父は専守防衛を誇りにしていた。そして自衛隊は違憲合法と言っていた。安保法制が違憲であるとはっきりするように憲法を変えられたらよい。憲法遵守をうちだし、立憲主義を徹底する憲法改正こそが必要。
◎それどころか自民党は各県1人の議員を憲法に明記すると言っている。
□自衛隊は戦力なのか?
◇自衛軍にすると安倍は言う。自衛隊法とは異なる法体系を考えているのか?
◎安保法の下では専守防衛ではなくなって、実質的に軍隊となっている。
○オスプレイとか空母とかは専守防衛ではなく軍隊である。
△国際法の自衛権を全面に打ち出した改憲論者の小林節の論調が専守防衛の方が現実平和的だと変化してきている。駆けつけ警護等の安保法制下で軍法会議はないのに、自衛軍にしたらどうして軍法会議が必要なのだろうか?
●先の総選挙での得票数は自公が33.2%であるのに対して立憲を唱える側は29.5%で、拮抗していることに確信を持って、国民的運動をしていくことが大切
◎草の根的に討論集会に参加し、運動の広がりに貢献したい。


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