ミニ講座 YU学び舎第20講(2020年4月4日)
「持続可能な農山村の地域づくり」

  講演タイトルと発表者

   「山口県の中山間地域づくりとその波及―合併自治体周南市の事例―」山本善積氏
   「地方創生事業と相反するイージス・アショア―阿武郡阿武町の事業を中心に―」鈴木力氏

 この2つの講演は、2月29日に松江市で開催予定だった第30回日本科学者会議中国地区シンポジウム「持続可能な農山村の地域づくり−中国地方の取り組みを事例に−」に山口支部から発表するレポートとして準備されていたものです。しかしながら、新型コロナウイルスのためシンポジウムは中止されたので、今回、YU学び舎実行委員会とJSA山口支部の共催で、山口市湯田温泉のサンフレッシュ山口で開くことが企画されました。直前まで会場が借りられるか危ぶまれていましたが、青く晴れわたった桜満開の下、18名の科学者・市民の参加で無事に開催されました。

 最初の講演者、山本氏は山口県地方自治体研究所で県内中山間地域等での地域づくりに関する調査をしてきたこと、県の定義する中山間地域は県土の7割の面積、人口の1/4(約20年前は1/3)に及ぶことを紹介。山口県では2006年に策定された「山口県中山間地域づくりビジョン」が出発点であり、平成の合併で誕生した広い市の周辺部活性化を課題とし、住民主体で将来計画を作成して実現する活動を行政が支援するかたちで推進された。しかし、その後、知事が変わる毎に県のビジョンが改定・変質されてきており、後で作られた山口県中山間地域振興条例への傾斜が強められ、国の「小さな拠点」形成事業の山口版(元気生活圏づくり)を推進するものになっている。
 2003年に2市2町の合併でできた周南市には11の中山間地域が存在する。最初は周辺の農山村地域で始まった「地域づくり」は2016年からは市内31地域全部が対象となり、現状では中山間地域で13団体、都市的地域では3団体で取り組まれている。この16団体の取組の中から、典型的な中山間地域の大道理地区と、JR徳山駅のすぐ北の都市的地域である今宿地区の事例を紹介した。
 大道理地区(200世帯弱、400人弱)では圃場整備工事の結果生じた広大な法面に農家が芝桜を植えたところ、年間5万人が来訪する景観地となった。農家だけでは来訪者の対応が困難になって、地区組織の「大道理をよくする会」で2011年に夢プラン(将来計画)を作成し、特産品の加工・販売、高齢者の互助活動、喫茶店や交流館の運営、移住・定住促進、などの活動を行っている。
 今宿地区(4500世帯、8500人、47自治会)には、多彩な人、意見、要求がある。市のまさに中心部に位置しているが、少子高齢化、つながりの希薄化、行事への参加者減に直面し、2016年に地域コミュニティ推進協議会から行政に相談した。そして、2019年に「つながる今宿夢プラン」を策定し、キラキラさせ隊(子育て)・イキイキさせ隊(高齢者)・ワクワクさせ隊(住み続け)を柱に、カフェ、ボランティアリーダー養成、情報誌発行などをやり始めている。
 県下には古くから行政とは独立した地域づくりの取組があるが、2006年以降は住民作成のプランを行政が公認するシステムが出来た。2018年以降は、国の事業の取り込みに変質している。周南市では「夢プラン策定・支援事業」が2010年にスタートし、当初は中山間地域づくりの推進であったが、都市部でも始まり、今後も広がりを見せるであろう。

 2番目の講演者、鈴木氏は社会政策が専門であり、山口に赴任して1年と言うことで、主に一般公開資料をもとにして阿武郡阿武町の町としての地方創生事業について概要を報告した。
 山口県全体として高齢化と人口減少率は全国で上位の中、阿武町も高い割合である。しかし、人口の社会減少は町の努力の結果、±ゼロとなってきており、10年前に予想された人口を上回っている。
 町長が率先して、人口を如何に減らさないためにIターン、Uターンをすすめる地方創生事業に取り組んでいる。移住・定住対策としてのインフラ整備、文化事業、医療費・保育費の無償化、道の駅の運営、住民参加型のコミュニティ政策をとっている。役場の若手職員の企画で住まい、仕事、つながりの3つの分野と8つのプロジェクトを走らせている。例えば、空き家を再利用した駄菓子屋の営業、空き屋見学会、季間労働者の募集と就業支援などがある。地域おこし協力隊員は役場が1年間雇用の間に1次産業で研修を積んでその後の定着を企画している。その他にも地元事業者と高校生のコラボ商品の開発、等々がある。
 こうした取組にブレーキをかけるのがイージス・アショア配備計画となっている。有権者の6割が「反対する町民の会」の会員となり、町長は明確な反対を表明している。IターンやUターンした人たちは、イージス・アショアが出来るかも知れないと知っていたら阿武町に来なかったという。ターンしてくる「人々が将来に渡って望めなくなれば、町が成り立たなくなってしまいます。・・・・町民みんなでつくりあげてきたこの町を、イージス・アショアでつぶしてしまうわけにはいかないのです。」と町長は訴えている。

   2つの講演に対する質疑、コメントの発言は活発に行われた。

  • 水源地の中山間地域に産廃処理場建設が問題となっている宇部市民「市長交代で何か変わらなかった?」
  • 山本:中心部の再開発と都市機能の高度化が合併の旗印で、開発のお金は中心部に投資され、広域的な道路整備がされた。そのため、中山間地域はますますピンチとなっている。
  • 平成の合併をしなかった防府市民「合併の功罪は?」
  • 山本:住民サイドに意見を求めると、とくに周辺部では否定的な意見が多い。合併した町村の役場職員が激減してわずかな支所の職員になり、住民サービス低下や地元の声の汲み上げが劣化している。阿武町のような取組は合併していないから出来る。
  • 萩市の中山間地域の市民「コミュニティづくりのかけ声はある。住民を使って地域を支えるという発想。しかし高齢化の進行でボランティアが出来る人が減っている。イージス・アショアについては、どうせ出来るのだったら、貰えるものは貰おうという地元有力者の意見がある。」
  • 阿武町にIターンした町民「外から来たものと在住者のトラブルがあっても、役場は傍観している。道の駅の再開発が進んでいるが、これまでの評価が十分とは見えないし、周辺住民の声を聞いてくれない。」
  • 山口市の中山間地域の農民「住民の暮らしの基盤は何なのかが基本的視点のはず。第1次産業を活性化し、食糧自給率を高める事業をやらないとダメだ。無農薬で安心安全な農産物をつくる百姓を育てること。」
  • 萩市民「自衛隊で栄えるようになった町は全国どこにもない。」
  • 司会者:国や県の関わりは?
  • 山本:国は「小さな拠点」形成を進めている。いくつかの集落がある場合、その中心集落に施設を集め、周辺とは交通を整備するという考えである。県はそれを「元気生活圏づくり」として推進しているが、小さな地域にまで中心と周辺をつくり、地域格差を拡大する恐れがある。もう一つ、連携中枢都市圏構想を国は打ち出している。山口県では、下関市、山口市などの県央、岩国市などと広島を含む3つの都市圏で取り組みがされていて、それを行政単位にするかどうかが国で検討されている。
  • 司会者:地方が生き生きとしながら、知恵と力を出して、自助自立の精神で頑張っている状況を知ることができ、励まされた思いです。農業をやっている人と漁業をやっている人では繁忙期が違うので、色々な階層の人たちをうまく結びつけ、労働力の有効活用を図りながら、街づくりをやっている知恵などは見事ですね。行政のガバナンスは重要ですが、現実を知っている地元の努力を助けてこそ、意味があります。
     両先生、本日は有り難うございました。                  (文責 HM)


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